私の魅力

1/5
前へ
/180ページ
次へ

私の魅力

 いろんなことが起こっている間に7月になった。  いつものように部室で過ごして、帰り支度をしていると、送ってくれようと遥斗先輩が立ち上がった。  あれ以来、先輩は毎日送っていってくれている。  でも、もう事態は収まった。もう誰も私を気にしていない。もう大丈夫よね?  ズルズルと引き伸ばしていたけど、7月になったら言おうと思っていた。 「先輩、もう送ってくれなくても大丈夫ですよ?」  遥斗先輩は静かに私を見た。  毎日、とりとめもないことを話しながら帰るのは楽しかった。話しているのはほとんど私だったけど。でも、毎日そんなことをさせるのは悪いとも思っていた。 「お前は………」  先輩はなにか言いかけたけど、なんでもないと首を振って、また私を見た。 「俺は意外と……たんだけどな」  ぼそりとつぶやく。 「え?」  聞き返すけど、先輩はまた首を振って、わかったと言い、絵に戻ってしまった。  待って、待って、今『気に入っていた』って言った?  先輩も楽しいと思ってくれていたの?  ………なんで余計なことを言っちゃったんだろう。私のバカ!  泣きたい気分で立ち尽くしていると、先輩がどうしたとばかりにこちらを見る。 「先輩………やっぱり今日は送っていってほしいです」  自分で断ったくせにと呆れられるかと思ったら、遥斗先輩は優しく微笑んで、立ち上がった。  せっかく送ってもらったのに、その日は胸がいっぱいでほとんどなにも話せず、ただ黙って家まで歩いた。 「優、髪伸びたよね?」 「うん、肩について跳ねるの。なんとかならないかなぁ」  色気のないのをなんとかしたいと、ひそかに髪を伸ばしていた。  でも、今、中途半端な長さで毎日跳ねるから、毎朝髪と格闘している。 「あー、その時期は仕方ないよねー。巻いたら?」 「巻く?」 「コテで巻くとごまかせるよ」  さやちゃんがあっさりと言う。 「コテなんて使ったことないー」  ずっとショートヘアーだったから、髪の毛をいじったことなんかない。  女子力の違いを感じる。 「やったげようか? 私、コテ持ってるよ?」 「ほんと?」 「私もやってー。さやちゃん、いつも髪の毛かわいくしてるよねー?」  お弁当を食べたあと、トイレでゆるふわ巻きの講習が始まった。 「これくらいを挟んで、くるんと」 「おぉー! 綺麗なカールができた! 私がやるとなんか変な跡がつくのよ」 「それは固定しすぎだよ」 「私はコテを買ってくるところから始めなきゃ」  わいわい言いながら、さやちゃんに髪を巻いてもらう。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

442人が本棚に入れています
本棚に追加