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私の魅力
いろんなことが起こっている間に7月になった。
いつものように部室で過ごして、帰り支度をしていると、送ってくれようと遥斗先輩が立ち上がった。
あれ以来、先輩は毎日送っていってくれている。
でも、もう事態は収まった。もう誰も私を気にしていない。もう大丈夫よね?
ズルズルと引き伸ばしていたけど、7月になったら言おうと思っていた。
「先輩、もう送ってくれなくても大丈夫ですよ?」
遥斗先輩は静かに私を見た。
毎日、とりとめもないことを話しながら帰るのは楽しかった。話しているのはほとんど私だったけど。でも、毎日そんなことをさせるのは悪いとも思っていた。
「お前は………」
先輩はなにか言いかけたけど、なんでもないと首を振って、また私を見た。
「俺は意外と……たんだけどな」
ぼそりとつぶやく。
「え?」
聞き返すけど、先輩はまた首を振って、わかったと言い、絵に戻ってしまった。
待って、待って、今『気に入っていた』って言った?
先輩も楽しいと思ってくれていたの?
………なんで余計なことを言っちゃったんだろう。私のバカ!
泣きたい気分で立ち尽くしていると、先輩がどうしたとばかりにこちらを見る。
「先輩………やっぱり今日は送っていってほしいです」
自分で断ったくせにと呆れられるかと思ったら、遥斗先輩は優しく微笑んで、立ち上がった。
せっかく送ってもらったのに、その日は胸がいっぱいでほとんどなにも話せず、ただ黙って家まで歩いた。
「優、髪伸びたよね?」
「うん、肩について跳ねるの。なんとかならないかなぁ」
色気のないのをなんとかしたいと、ひそかに髪を伸ばしていた。
でも、今、中途半端な長さで毎日跳ねるから、毎朝髪と格闘している。
「あー、その時期は仕方ないよねー。巻いたら?」
「巻く?」
「コテで巻くとごまかせるよ」
さやちゃんがあっさりと言う。
「コテなんて使ったことないー」
ずっとショートヘアーだったから、髪の毛をいじったことなんかない。
女子力の違いを感じる。
「やったげようか? 私、コテ持ってるよ?」
「ほんと?」
「私もやってー。さやちゃん、いつも髪の毛かわいくしてるよねー?」
お弁当を食べたあと、トイレでゆるふわ巻きの講習が始まった。
「これくらいを挟んで、くるんと」
「おぉー! 綺麗なカールができた! 私がやるとなんか変な跡がつくのよ」
「それは固定しすぎだよ」
「私はコテを買ってくるところから始めなきゃ」
わいわい言いながら、さやちゃんに髪を巻いてもらう。
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