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「遥斗に発破かけに来たんだけど、まさか揉めてるとはね」
「発破?」
意外な単語が出てくる。
「遥斗、ケンカしている場合じゃないでしょ? 取られちゃうわよ? あの野球部の子に。いいの?」
「真奈美には関係ないだろ」
「関係あるわよ。遥斗には責任感じてるし」
「余計なお世話だ」
今度は真奈美先輩と遥斗先輩が言い合いを始める。遥斗先輩はむちゃくちゃ苛立った顔をしている。
野球部の子?
あ、もしかして、あのとき見られてたの?
真奈美先輩は私が遥斗先輩のことを好きなのを知ってて、プッシュしようとしてくれているんだ。
遥斗先輩はそれを煩わしく思っているのね。
「遥斗、よーく考えなさいよ? 優ちゃんがいる生活といない生活を」
「………………」
真奈美先輩、もういいです!
私をよそに繰り広げられる会話に、居たたまれなくなって、止めようとしたとき、遥斗先輩が言った。
「………でも、優にはああいう健全で爽やかな男が似合う。あいつの方が優は幸せになれるだろ」
心臓が凍りついた………気がした。
それは拒絶。自分には必要ない、他の男と付き合えと。
「………なにそれ」
私がつぶやくと、二人の視線が注がれた。
「遥斗先輩、大きなお世話です。私が誰と付き合おうが、なにに幸せを感じようが、私の勝手です。遥斗先輩には関係ない! 余計なお世話です!」
言い放つと私はカバンを持って、部室を走り出た。
涙がこぼれないうちに。号泣してしまわないうちに。
廊下を走って、外を走って、家まで全速力で帰る。
走り過ぎて、喉に血の味がする。
階段を駆け上り、自分の部屋に入ると、ベッドに倒れ込んだ。
泣きそうと思っていたのに、ずっと我慢していたからか涙は出ず、心も頭も凍りついたように静止したままだった。
トントン
「優、どうかした?」
お母さんが心配して上がってきた。
「ううん、なんでもない」
意外と平静な声が出た。
「そう? ただいまぐらい言いなさい」
「はーい。ごめんなさい」
心とは別に口は勝手に動く。
…………ふられちゃった。
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