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「………わからないです。遥斗先輩がもう来てほしくないって言うかもしれないし」
苦笑して答えると、「それはないわよ!」と真奈美先輩が否定する。
でも、もともと私が押しかけたようなものだし、あんなに煩わしそうにしていたんだもん、その可能性は十分ある。
「気にしてもらって、ありがとうございます」
無理やり笑顔を作ると、真奈美先輩は悲しそうに「私、いつも選択を間違えちゃうのよね……」と言った。
「そんなことないですよ!」と言う私に笑って、手を振った。
「ごめんね。邪魔して。遥斗を見捨てないであげてね」
見捨てるとかするわけない。逆なのにね。
「なにかあったの?」
離れて見守ってくれていた菜摘ちゃんが聞いてくれた。
「ううん、なんでもないの」
「このところ元気ないのに関係ある?」
気づいていたんだ……。
驚いた私の顔に、「そりゃ気づくわよー」と菜摘ちゃんが苦笑した。
気づいていたのに、そっとしておいてくれていたんだ。
感謝して、それに甘える。
「もう少ししたら教えるね」
「うん」
金曜日、さすがに今日は部室に行かないと、野球部の記事が書けない。
ものすごく行きづらいけど、仕方ないか。
ホームルームが終わって、重い腰を上げる。
廊下の方がざわっとした。
なんだろうと思いながら、廊下に出ると……。
「優」
聞き慣れた声で呼ばれた。
いつものように表情のない端正な顔がこちらを見ている。
違う。いつもの顔じゃない。
目が合った瞬間に、飢えたような切ない瞳で途方に暮れた顔をした。
「は、遥斗先輩、どうして?」
先輩がこんなところに来るなんて!
「うわぁ、迎えに来たんだ」
横で菜摘ちゃんがつぶやくと、遥斗先輩は頷いた。
迎えに……?
「………もう来ないのか?」
絞り出すような声で、先輩がつぶやいた。
「き、今日は行こうと思っていました。先輩、部室に行きましょ!」
すごく目立っている。
先輩は全然構う様子はないけど、人集りがどんどん増えていっていて、私は慌てて先輩の背中を押して、部室に行くよう促した。
遥斗先輩は歩き出したけど、時折、私がついてきているか確認するように、ちらっと振り向いた。
そのどこか子どもっぽい仕草にキュンとなり、足を速めて先輩に並んだ。
部室に着いて、ほっと息を吐く。
一週間ぶりの部室だ。
遥斗先輩が所在なげに佇んでいる。
私も来てはみたものの、どうすればいいのかわからない。
っていうか、先輩はなんで来たんだろう?
「あの……」
「話が……」
二人の言葉が重なって、私が先輩に先を譲ったら、「話がある」と言われた。
じっと真剣な眼差しで食い入るように見られて、頷きながらもちょっと怯む。
なんだろう? なんの話だろう?
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