おせっかいはもういい

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 まったく読めない遥斗先輩の整った顔を見上げる。 「俺は……」  意を決したように先輩が話し出した。 「お前のおかげで、朝昼食べられるようになって、食べ物の味がわかるようになった。出品料も気にしなくて済むようになったし、バイトも順調で、絵も売れるようになって、まともな生活ができるようになった。俺はもう不幸じゃない。お前には感謝しているんだ」  改めて言われると面映ゆい。  そっか、よかったなぁ。順調なんだ。 「そんな……。私はただおせっかいなだけで……」  私が照れて笑うと、反対に遥斗先輩が顔を歪めた。 「俺はもう不幸じゃない」  遥斗先輩が繰り返した。  まっすぐに見つめてくる。 「だから、お前のおせっかいはもういらない。必要ないんだ、優」  目の前が真っ暗になった。    もういらない? 必要ない?  明確な拒否。こないだ以上に直接的で明快な拒絶の言葉。  それが言いたかったの? わざわざ教室まで来て? 「そう、ですか……」  ふらっと揺れて、そばの机に手をつくと、うなだれた。 「違うんだ、優! 最後まで聞いてくれ!」  その腕を掴まれた。  熱い手の感触に、思わず顔を上げると、すぐ近くに綺麗な顔が迫っていた。 「せ、ん……ぱ、い……?」  熱く狂わしい瞳で見つめられて、目が離せない。 「同情もおせっかいもいらない。そうじゃなくて、それを取っ払った上で、そばにいてほしいんだ」 「え?」 「俺のそばにいてくれ、優!」  ねだるような乞い願うような必死な目をして先輩が言った。  そばに? おせっかいじゃなく? 「お前がいない日々には耐えられない」  先輩が深い溜め息をつく。 「ひとりでよかったはずなのに、お前を知ってしまったら、お前がいないとすべてが色褪せて見えて、絵さえも描けない」  遥斗先輩の情熱的な言葉が続いた。  こんなにいっぱいしゃべっている先輩は初めてかも。  どうでもいいことが頭をよぎる。  だって、私に言われている言葉だなんて信じられない。  これ以上聞いていると、勘違いをしてしまう。  まるで、遥斗先輩が私を……。 「好きだ、優」  ストレートな言葉が耳を打つ。 「好きなんだ。あいつの方が優を幸せにできるとわかっていても、渡したくないんだ」  続いた言葉に、ぐっと拳を握りしめる。 「遥斗先輩! なんで勝手に決めつけるんですか! なんで森さんの方が私を幸せにできるってわかるんですか! 私は先輩じゃないと意味ないのに。遥斗先輩じゃないと嫌なのに!」  そう叫ぶと、先輩は目をこれ以上ないほど見開いた。  驚愕する先輩を見上げて、私は続けた。 「私も好きです。遥斗先輩のことが好きです!」  ようやく言えた。言いたくて言いたくて仕方なかった言葉を。
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