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唇が触れたと思ったら、すぐ離れて、ギュッと抱きしめられた。
おずおずと遥斗先輩の背中に手を回す。
心臓がバクバクとすごい速さで高鳴っていて、胸が苦しい。
でも、顔をつけている先輩の胸も、トクトクトクと早鐘を打っていて、先輩も同じなのかなと思ったら、より愛しさを増した。
顔を上げて、先輩の顔を覗き込む。
「遥斗先輩、好き」
つぶやくと、先輩は目を見開いたあと、ベリッと身体を剥がして片手で顔を覆うと、そっぽを向いた。
「お前、かわいすぎるだろ」
手の隙間から見える顔が赤い。
私も真っ赤になって、俯いた。
しばらく私たちは無言で赤くなって立ち尽くしていた。
「今度……お前を描いていいか?」
ぽつりと先輩が言った。
先輩が人物画を描いているところは見たことがない。
「もちろんです! うれしい」
そう言うと、先輩はふわっと花咲くように笑った。
そのあと、先輩に手伝ってもらって、野球部の記事を完成させて、家まで送ってもらった。
並ぶ距離が近くて、時々肩や手がふれる。
その度にドキドキして、うれしくてキュンとなる。
家が見えてきた頃に、手を繋がれた。
「遥斗先輩、明日も行っていいですか?」
「あぁ、昼前からバイトだけどな」
「じゃあ、朝ごはん持っていきます。なにがいいですか?」
「優………」
先輩が咎めるように見るから、急いでつけ足す。
「同情でもおせっかいでもなくて、彼氏にご飯を作りたいだけなんですけど、ダメですか?」
好きだって言われたけど、付き合う、でいいのよね?
自分で言った『彼氏』という言葉に、急に自信がなくなって、先輩を見上げると、繋がれた手に力が入った。
「ダメ、じゃない。…………彼女が作ったものなら、なんでもうれしい」
先輩がそんなことを言ってくれて、言ってて恥ずかしくなったのか、横を向いた。
先輩、かわいい!
ギュッと心を鷲掴みにされて、先輩の腕に抱きついた。
「お、おいっ」
うろたえたように声をあげる。
「ふふふっ、先輩、好きっ」
そんな先輩も愛しくて、言葉が溢れてしまう。
赤くなった先輩は一瞬固まって、直後に抱き寄せられ、チュッと頭にキスを落とされた。
今度は私が固まる番だった。
「それじゃあ、また明日」
「あぁ」
名残惜しくて手が離せなくて、玄関でこのやり取りを3回続けている。
先輩が優しく手を抜き取ると、その手で頭をぽんぽんと叩いた。
「じゃあ、また明日」
踵を返した先輩に、慌てて手を振る。
「先輩、また明日!」
遥斗先輩は振り返って微笑んでくれた。
明日はなにを作ろうかな?
ぼーっと考える。
ご飯を食べていても、お風呂に入っていても、顔がにやけるのを止められない。
「なにかいいことあったの?」
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