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私が考えている間に一区切りついたのか、彼がチラッと振り向いた。
私は息を呑む。
切れ長の涼し気な瞳、スーッと通った鼻筋、薄い形のいい唇。その人は見たことがないくらい整った顔だった。そこらの芸能人が裸足で逃げ出すレベル。
光のせいか瞳がブルーグレーに見えた。
髪の毛は日本人的に真っ黒だから、ハーフなのかな?
「うわぁ、綺麗な顔……」
私が思わずつぶやくと、彼は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「この顔を見て、モデルを頼んだんじゃないのかよ」
「違います。朝焼けを撮ろうと思ってここに来たら、あなたがいて、構図がよかったから写真を撮っちゃったんです。だから……」
「ふーん。それで、どうするんだ? 俺はどっちでもいいが」
「ぜひお願いします!」
私のテンションは『モデルになってくれると有り難い』から『ぜひ』に一瞬で変わっていた。だって、こんな綺麗な顔を写真に納められるなんて、やりがいがあり過ぎる!
「じゃあ、明日から昼飯をよろしく。俺はたいがい写真部の部室で絵を描いている。適当に写真を撮ればいい」
「写真部? 美術部じゃなくて?」
「あぁ、俺は美術部じゃないしな。写真部でもないが、あそこは空いてるから」
「屋外で写真撮りたいときは付き合ってもらえます?」
「たまにだったらいいが、しょっちゅうは止めてくれ」
モデルを頼まれることは多いのか、彼は淡々と告げる。そりゃあ、このビジュアルなら、街を歩けばスカウトが飛んできそうだしね。
「あの……お昼ごはんって、お弁当を作るってことですか?」
「いや、別にそこらのコンビニで買ったものでもいい」
コンビニ弁当一ヶ月分……。無理だわ。貯めていたお小遣いで一眼レフカメラを買ったばかりで、すっからかんだった。
「作ってもいいんですよね?」
作るのなら家の材料でなんとかなる。って言っても、お弁当なんて作ったことはないけど。
「俺は食べれればなんでもいい」
「そうですか。嫌いなものとかあります?」
「特にない。肉や魚のタンパク質があるとうれしい」
細いけど男の人だなぁ。やっぱりガッツリ食べるのかな? お兄ちゃんが高校のときのお弁当箱は重箱のようだった。運動部だったから余計かもしれないけど。
「了解です。あ、私は一年の佐伯優です。あなたは?」
「俺は二年の久住遥斗」
「じゃあ、よろしくお願いします!」
「あぁ」
ニコリともしないで頷くと、その人……久住先輩はイーゼルに戻った。
その動きに釣られて、キャンバスを見ると、朝焼けのあの幸せなピンク色とあふれる光が見事に表現されていた。
すごい……! 綺麗……。
絵のことはなにも知らないけど、素人目にもレベルが違うのがわかった。
天は二物を与えるのね。
なんかズルいと不機嫌になる。
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