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(綺麗だったなぁ、あの人)
自転車を漕ぎながら、遥斗先輩のことを思い返す。
マジで見たことないレベルの美形。現実にいるんだ、あんな人。あと、絵も綺麗だった。優しい色合いなのに、迫力というか存在感にあふれていて、才能があるってああいうことなんだと打ちのめされるような……。
美術部じゃないって言ってたけど、絵を志していて、あんな人が隣りにいたら複雑よね。
私は写真でよかった。
着いたところは一面の桜。
ちょうど風が吹いて、花びらが舞い上がった。
「わぁ……」
花吹雪にシャッターを押しまくる。露出とか絞りとか適当だけど、この一瞬を切り取りたい一心で。心打たれる瞬間を残したい。それが私が写真を始めた理由だから。
家から近いのに、駅とは反対方向だし、こっちに来たことがなかったな。
そこは公園でもなく、桜の木が並んでいて、ベンチがひとつ置いてあるだけだった。
すごい穴場を見つけちゃった。お母さんに教えてあげないと。来年はもっと早く満開のときに来よう。
しばらく写真を撮って振り返ると、遠くにうちの高校が見えた。
遥斗先輩はまだあそこにいるのかな?
屋上に目をこらすけど、見えない。
先輩も朝焼けを描いてたから、もう帰ったかな?
私も一旦家に帰ろう。撮った写真も見たいし。
屋外だとなかなか確認できないから、家のパソコンに繋いで見るつもりだ。
また自転車に乗ると家を目指した。
「ただいまー」
「おかえり。って、ちょっと優! ロールパン持っていったでしょ? 食べようと思ってたのに」
「ごめーん。食パンがあるからいいかと思って」
「今日はロールパンの気分だったのに!」
帰るなりお母さんに苦情を言われる。
お母さんはちょっと子どもっぽいところがあって、最近は友達感覚で割となんでも話せた。
「で、残りのパンは?」
「あげてきちゃった」
「あげた? 誰に?」
「学校の先輩」
「先輩?」
正確に言うと、遥斗先輩にパンの袋を渡したまま帰ってきちゃった。
「そうだ、お母さん。明日から一ヶ月、お弁当作らないといけなくなったの」
私がそう言うと、お母さんはにやにや笑った。
「え、なになに、彼氏できたの?」
「違うよ! モデルをやってもらうことになっただけ!」
慌てて否定して、遥斗先輩のことを話す。
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