気になる人

6/11
前へ
/180ページ
次へ
 翌日の月曜日、私は始業時間のだいぶ前に学校に来ていた。遥斗先輩にお弁当を渡したかったから。  休み時間に渡しに行ってもいいんだけど、二年生の教室に行くのも恥ずかしいし、だいたい写真部の部室にいるって言ってたから、もしかしたらこの時間は部室にいるかなって思ったのだ。  部室が連なる棟に行って、写真部を探す。  入口から順に人気の運動部の部室があって、奥に行くほどマイナーな部活になっている気がした。  そして、ようやく見つけた写真部は一番奥だった。  なんか隅っこに追いやられてるわね……。  扉をノックしてみたけど、応答はない。 「遥斗先輩?」  呼びかけてみても反応がないから、ドアを開けてみる。  うわぁ、すごい匂い……。  そこは、キャンバス、いろんな画材、クロッキーブックなどが乱雑に積み重ねられていて、油絵の具の匂いがこもっていた。  まるで画家のアトリエのよう。  中央にはイーゼルに向かっている遥斗先輩がいた。 「なんだ。いるなら返事してくださいよ!」 「ん……」  絵に集中しているみたいで、先輩は生返事だ。  まだ時間があるから、私は手近なイスを引き寄せて、彼が絵を描くのを眺めた。  真剣な横顔が麗しい。  あ、そうだ、写真撮っちゃえ。  昨日、絵を描いているところを撮ってもいいって言ってたから、いいよね?  正面からはさすがに邪魔だろうから、横顔や後ろ姿を撮る。  昨日も思ったけど、この人、立ち姿もなんて言うか様になるなぁ。  カメラのモニターで撮った写真をチェックしていたら、いつの間にか、遥斗先輩に見られていた。 「あ、おはよーございます!」 「あぁ」  自分からお昼を頼んだくせに、素っ気ない。  苦労して作ったのに!とちょっとムッとして、私は巨大なお弁当を差し出す。 「約束したから持ってきました」  私の態度にか、お弁当の巨大さにか、遥斗先輩は瞬いて、じっと見つめてきた。  そんな綺麗な顔で見つめないでよ!  ジワジワと頬が熱くなるのを感じて、私は慌ててお弁当を先輩に押しつけると、「放課後に取りに来ますから!」と言って、その場を逃げ出した。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

444人が本棚に入れています
本棚に追加