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遥斗先輩は始終表情を変えず、「申し訳ありません」「ありがとうございます」と繰り返すだけだった。
そうこうしている間に、連絡していた叔父さんも来てくれた。
「遥斗くん、このたびは……」
叔父さんが声をかけると、先輩は目を見開いた。
「佐伯さんまで来てくれたんですか……」
チラッと私を睨む。
余計なことをしたと思っているんだろうな。
「だって、作家のトラブル処理は画商の仕事なんでしょ?」
「しかし、契約を結んだばかりでこんなプライベートなこと……」
「大丈夫だ。契約の範疇だよ、遥斗くん。契約を結んだからには大事な作家だ。手伝わせてくれ」
叔父さんがそう言ってくれて、遥斗先輩は黙って深く頭を下げた。
その頭をポンポン叩く。
そして、見守っていた和田先生と話を始めた。
お母さんの住居、遺品整理、遥斗先輩の今後のこと、考えることは山ほどあるようだった。
でも、先輩はどこかうわの空で心配でならなかった。
手を握っても、私を見てるようで見てないみたいで、不安になる。
あれよあれよという間に、お通夜、お葬式の準備が整って、先輩は喪主として、制服姿で渡された挨拶文を読み上げていた。
葬式は職場の人たちが来てくれてこじんまりと行われた。
私はなるべく先輩に付き添っていた。
しばしばご飯を食べるのを忘れているようだったので、食べ物を持ってきて、一緒に食べた。
先輩は与えられたものを機械的に食べているようだった。
お葬式が終わって、部室に帰ってきた。
相変わらずぼんやりとしている先輩に抱きついた。
「先輩、お疲れさまです」
ふいに、ギュッと腕を掴まれて、引き離された。
久しぶりに強い眼差しで見つめられた。
苦しげな表情の先輩に息を詰める。
「優………別れよう」
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