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8.トイとナツメ
――緋色の朝焼け。
出発の日の朝、トイはナツメと風呂に入りたいと駄々をこね始めた。
日記の書き方を教わる、数時間前の事だ。
ナツメは仕方なくトイの要望通り宿の風呂に向かった。ほんの少し前までは街にいる時は毎晩のように入浴を共にしていたが、こうして二人で入ろうと脱衣場で服を脱いでいるとそれも久しぶりな気がした。
「先行ってるね」
「ああ」
小ぶりな臀部が、跳ねるように水場へと向かった。
「身体は、女なんだよな」
ナツメは鍛え始めてから数年で身に着いた屈強な自分の裸体を一度まじまじと見つめてから、トイの後を追う。
先に身体を洗っていたトイの隣に腰を降ろし、ナツメも洗う。
「ナツメ、元気ない?」
「ん?どうしてだ?」
「なんか、小さいから」
「……うるせぇ。水かけるぞ」
身体を洗い終えた二人は、石材で円形に作られた浴場に入る。宿の店主の導陣で湯を張っているらしい。以前トイにそう話したら、店主にしがみついて導陣を教わろうとしていた。
結局どうなったか、ナツメは知らない。
「ふぅ」
「ふぅ」
ナツメが浴場の縁に背中を預け、腰かけるように湯に浸かると、トイはその足の間に入ってくる。お決まりの構図だ。
「なぁ。そういえば、お前。店主から導陣教えてもらったのか?」
「ふっふっふ。知りたいか?」
「良かったな、教えてもらって」
「言わせて!せめて!」
トイは、少しでもナツメにくっつきたいのか、背中をナツメの胴に押し当ててくる。
そうすると、ナツメの弛緩したそれはトイのちょうど腰の辺りで潰れ、首をもたげる。
トイははじめこそ面白がって触ったりしていたが、今では気にも留めていない。
ただ、ナツメと少しでも多く肌を触れていたいのだ。
「俺も、ナツメみたいなのが良かった」
「急にどうした?」
「みんな、俺を女扱いする」
「まあ、可愛いしな、見た目は」
「でも、俺は、上手く言葉にできなけど……なんとなく、違う気がするんだ。俺は、男だって。そっちの方が合っている気がする」
膝を抱えて座ったトイに、ナツメは掛ける言葉が見つからず、水を吸って艶がかった頭を撫でる事しか出来なかった。
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