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「ナツメは、どう思う?」
「俺か?俺は……トイの好きなように生きればいい。と、そう思う。見た目が全てじゃないしな」
「そうか……そう、だよね」
ありがとう。
そう言うとトイはご機嫌に頭を左右に振り始めた。
水がぱしゃぱしゃと跳ね踊り、ナツメも僅かに口角を緩めた。
「ねっ、ナツメっ」
「どうし……んっ」
ナツメに背を預けて座っていたトイは、素早い身のこなしでナツメを振り向くと、腰に足を回し、首を腕で抱いて身体を重ねてきた。
湯のせいか、赤いトイの耳が見える。
控えめなトイの胸の二つの蕾が、ナツメの肌に押し付けられた。潰すように、限界まで。
「ナツメ。ありがとう。俺を拾ってくれて。ここまで連れてきてくれて。〈森〉に行くって、受け入れてくれて」
耳元で囁くトイの声は切なげで、消え入りそうで、熱くなる身体で包めればいい、とナツメは太い双腕をトイの背中に回した。片手を臀部の下に滑らせ、抱え直す。
水音に混じって、小さな息が漏れた気がした。
「気にするな…………………俺が、勝手にした事だ」
「でも、嬉しかった。寒く、なくなった。痛くもなかった。温かった。ナツメが、いてくれたから」
「それは……違う」
「え?」
ナツメの否定に、悲しそうな声色で問い返したトイは、安心させるように背中を撫でるナツメの手つきに頬を緩め、その肩に頭を預けた。
「それは、お前が生きていたからだ。俺は、その手伝いをしただけだ。お前が生きようとしていなかったら、俺たちは会う事もできていなかったさ」
「そうかな」
「そうだよ」
「そうだね」
「ああ」
肩から顔をあげ、微笑みあった二人は、ついばむようなキスをした。
何度となく重なる唇の吸いつく音は、踊る水面に掻き消される。
重なった二人の身体は、緋色の朝焼けに照らされて、熱く、熱く溶けていった。
まるで、お互いの存在を確かめ合うように――
それは、二粒の朝露が垂れる日の事だった。
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