9.ばか、大好き

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 背中から、トイの悲鳴に近いような大きな声が聞こえた。  ナツメは、今にも引き返してしまいそうな気持ちを堪え、過剰なくらい手綱を振るう。  はじめは高くいなないていた愛馬にも、トイの声とナツメの鼻をすする音が聞こえていたのか、何も言わずに走ってくれた。  と、トイは言った。 ――また、会えるよ。 「……ああ。会えたよ」  胸に手を当てて、そう独り言ちたナツメは、トイの声が耳の中で反響している内に、内心で最後の言葉を送った。 ――ごめんな、トイ。  馬車は、止まる事なく平原を奔った。  翡翠のような、綺麗な若草の、その上を。
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