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10.〈森〉の遺志
馬車が〈森〉の近くに着いた日から、数日間。
ナツメと考えた作戦を実行するために、トイは〈森〉に気が付かれない距離を保って、〈森〉の周囲を歩き続けていた。は、食事を済ませたすぐ後で、歩くのもコツがいる。
重い荷物を背負ってだだっぴろい平原を、巨大な木々を仰ぎながら歩いていると、寂しさや気合よりも先に、やるせなさが込みあげてくる。
「本当にあるのかなぁ」
深く息をつき、下を向いて沈んだ表情を浮かべたトイは、慌てて首を横に振った。
「ナツメに言われたんだ。下よりも、上を向けって」
上を向く。
首が痛くなるくらい高くまで伸びる木が、トイを見下ろしていた。
こうして見ると、文字通り巨大な壁のように絶え間なく森が続いているのがはっきりと分かる。現実に、〈世界を喰らう森〉を目の前にしているというのに、冗談のような規模に正面から入っても大丈夫なような気がした。
幹の部分だけで百メートルはゆうにあるだろう大きな木の隙間から見える、森の入り口。
こちら側は朝だと言うのに、その中は深い闇が広がっていて、近づけば〈森〉のその闇に吸い込まれてしまいそうだ。もっとも、ナツメの話ではその前に〈森〉に襲われるのだが。
「だいたい、森が襲うってなんだよ。どういう事だ」
入った者を二度と外へ出さない、とか方位が分からなくなって迷い、死ぬとか、そういう事ではないらしい。文字通り、喰う。それが、この〈森〉なのだと。
「今日も、見つからないのかな」
前は〈森〉、後ろは何もない平原。
馬車も無ければ、ナツメもいない。
最悪、一か八かで正面から入る事も考えていた。
「〈森〉の攻撃が届かないような、〈森〉の死角……火をつけても〈森〉によってすぐに鎮火されてしまったっていう記録もあるみたいだし、そんなのあるのかな」
ナツメは、こう言っていた。
それが森、つまり生物である以上、何かしらの弱点は必ずある、と。
それさえ見つけられれば、〈森〉の中に入れるかもしれない、とも言っていた。
「それって要するに無策って事なんじゃ……」
トイはしかし、ナツメを信じて、それらしいモノがないか、〈森〉の周囲をくまなく探索していた。
そうしながらも、内心では別の事を考えていた。
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