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「……ナツメ?」
「あ、気が付いた」
額を撫でる優しい手つきにナツメを感じたトイは、宿の温かなベッドを思い出し、朝食にナツメが用意してくれると言っていたあの粥の味を思い浮かべた。
早く着替えて食事にしよう、と目を開けると、心配そうに自分を覗き込む、知らない顔が二つ。緋色の髪を耳にかける少女と、なんだか、見た事があるような気がする影の差す翡翠の瞳。
それを見て、トイはここまでの経緯を思い出した。
「……ごめん。吐いたりして」
「大丈夫。私たち、慣れてるから。それよりも、あなたを苦しめてしまったのは私だよね。ごめんなさい」
「いや、いいんだ。君は俺の瞳を褒めてくれただけ。取り乱した、俺が悪いよ」
そこまで言ってから、どうして真上に二人の顔があるんだろう、と不思議に思ったトイに、レーヒが言った。
「もう起きられるか?」
「……?って、あっ。ひ、膝っ。ごめんなさいっ」
「……っ」
「あてっ」
「もう、何やってんの、二人とも」
レーヒに言われ、トイは自分がレーヒに膝枕されている事に気が付き、慌てて顔をあげた。勢いあまって、トイを覗き込んでいたレーヒと額をぶつけてしまって、トイは目に涙を浮かべて転がった。
その様子に苦笑したエナは、湖面の水で濡らした衣を差し出した。
「これで顔、拭いてね」
「あ、ありがとう」
二人の好意にトイはナツメを思い出していた。
トイはナツメから、拾われた時トイがどんな状態だったかを何度か聞いた事がある。ナツメを拒絶するトイに、ナツメは辛抱強く優しく接してくれて、トイが次第に心を許したのだと。
忘れるはずもない、トイが始まったその瞬間に心に降ってきた温かさと、似た温度が、その冷たい布からは感じられた。
「ありがとう……もう、大丈夫。もう、落ち着いたよ。うん、落ち着いた」
「――そう?良かった」
自分に言い聞かせるように繰り返すトイのその言葉が、文字通りの意味でない事はエナにもレーヒにも分かっていたが、トイを気遣ってそう微笑んだ。
「エナに、レーヒ、だっけ。改めてありがとう」
「――トイ、だったな。礼には及ばない。それより、俺も首にナイフを突き付けてすまなかった。瞳の事も、なんと言えばいいか……」
「いいよ、それこそ。気にしないで」
トイは、冷静になりつつある中、内心焦っていた。
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