3.翡翠の瞳

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 何かが弾ける音がした。弾け、切れて、回る。  そんな音がする。 「おっ、気が付いたか」 「……?」  馬車を背に、岩陰で焚火をしながら粥を作る大柄な男は、岩に背を預ける目覚めたばかりの子どもに微笑みかけた。  綺麗になった髪が汚れないように、子どもの膝に乗せてやっていた白髪が、子どもの身じろぎではらりと地面に落ちる。 「どうだ。具合は?」 「いっ、嫌あああっ!」 「おっ、おいっ。大丈夫だ、落ち着け、俺は何もしない。な?」  男は、乳白色の薄地の衣の上に着た収納が多い羽織の上からでも分かる、ごつごつとした筋肉質の体躯を持っていた。腰に刺した短剣は飾りが少ない実用的な代物らしく、質素な意匠に見える。  揺らめく火に照らされた顔立ちは整っていて、高い鼻と彫りの深く鋭い目つきは光の加減で猛禽類のそれにも見えた。その双眸は緋色の水晶のような煌めきで、左右を不揃いに刈り上げた黒い短髪との具合で闇に浮かぶ炎のようだった。 「ほら、大丈夫だ」  柔和な声を落とし、大きな双腕で子どもを抱きしめた男は、慈しむような手つきで子どもの白髪を撫でる。  しかし、それがかえって子どもを怯えさせたのか、子どもは男の胸板に両手をついて男を遠ざけ、頭を抱えながら気を失ってしまった。 「……やっちまった」  辛うじてそれだけを放った男は、子どもに温かい掛け布を被せてやって、地面との間に敷き布を当てて身体が汚れないようにしてやった。 「……綺麗な翡翠だった」  確かめるように冷たくそう呟いた男は、子どもが目覚めるまで、冷めないように粥を混ぜ、焚火に枯れ枝をくべていた。
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