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業火
気がつくと私の眼には、
業火に焼かれる都市の光景が映っていた。
崩れてなおも燃えさかる瓦礫の山は、
どこの街だか分かる痕跡さえもとどめていない。
その手前には、以前に召喚した時と同じ、
見事な角を生やした愛らしい少女の姿で、
魔王が玉座に座っている。
どうやら攻撃は成功したようだ。
国際的な経済・社会危機が広がる中で、
強権的な支配を続けた我国の体制も
最早続かないと判断した私は、
ダメ元のつもりで先制核攻撃を命じた。
上手くすれば私は英雄、
敵国の競争相手からの支援も受けられ、
世界の勝ち組になれると踏んだのだ。
私は魔王に礼を言った。
『おお、敵国はまさに火の海だ！ どうも有難う』
しかし彼女は憂い顔で答えた。
『いや、すまない。 これは違うんだ。
私は契約通り、相手国の迎撃ミサイル網を
全て無力化したんだが、
彼らはすでに、防衛用の高出力レーザーの
実戦配備にも成功していた』
私は驚いて、言葉に詰まった。
『えっ？ と、いうと……？』
悪魔は言いにくそうに、説明を始めた。
『言いわけのようになってしまうかもしれないが、
先方には私より強力な……ああ、
魔王か何かが、ついていたのかもしれないな。
目標に向かった核ミサイルは全て破壊されたうえ、
誘導を外れた一発が、他国の都市付近に落ちた。
相手国は無傷のうえに、
国際世論も〝激おこ〟だ……はっは』
軽く苦笑いする魔王に、
私は何て酷い奴だと思ったが、
そもそもこいつは悪魔だし、
よく考えたら戦争を始めた私にも、
そんなことが言える筋合いはない（笑）。
『じゃあこれは、その国の……』
悪魔はさらに、言いにくそうにした。
『いや、こっちは……君の国なんだ。
攻撃の失敗と報復への恐怖に怒り、
狼狽えた将軍の一人が反乱を起こした末に、
首都へ戦術核攻撃を行った』
呆然とする私の様子を伺うような表情で、
彼女はさらに言葉を続けた。
『さらに、直属の部下達も君を見限り、
君が隠れる地下司令部を逃げ出して、
国民達にその場所を知らせた。
……思い出せたかな？』
すると、暴徒が指揮所に乱入してきた時の
恐ろしい記憶が、脳裏に蘇ってきた。
私は急に気分が悪くなり、両手で頭を押さえて、
『ああ……』と呻くことしかできなかった。
『そういうことで、予定よりも少し早いが、
彼らは君をここに送り込んだというわけだ』
何か険悪な気配を感じた私が後ろを振り向くと、
そこには首都の惨状を何百倍も悪くしたような、
荒涼たる炎熱地獄が果てしなく広がっており、
本来の禍々しい姿をした悪魔が二体、
凄まじい形相で立っていた。
『確かに私には厄災をもたらす力があるが、
人々を動かす地位にあった君にはむしろ、
他の能力を活かしてほしかったな。
でも、今となっては仕方ない。
地獄へようこそ……』
相変わらず浮かない声で呼びかける魔王を残し、
悪魔達は容赦なく、嫌だ嫌だと泣き足掻く私を、
眼下の地獄へと引きずっていった。
アイム（エイム）：
ソロモン王が使役した、７２大悪魔の中の一柱。
城砦や都市に火を放つ能力や、人を賢明にする能力、
隠れた物事を明かす能力をもつ。
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