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わたしは幼い頃から大きくなったらわたしには王子様が現れると信じていた。王子様と言っても白馬に乗った王子様とかそんなんじゃない。わたしのことを好きになってくれてこのひどい環境から連れ出してくれる男性のことだ。
わたしの家は異常だった。気に入らないことがあるとすぐに物に当たる父と子どもを自分の思い通りに操ろうとする母。そのおかげで、わたしは学校や塾以外で家を出る機会がほとんどなかった。買い物に行くにも親と一緒。友達と遊ばせてもらえるのなんて、平均したら数ヶ月に1回だ。そのときだって門限を1分でも過ぎたら怒られる。どこに行くのか誰と行くのか細かく聞かれる。気に入らない場所なら遊んでは行けないと言われる。本当に自由がなかった。服も親がこれにしなさいと言うものを買う。親が勧めるもの以外を買えば後で
「あっちの方がいいのになんでこんなのにしたの!?」
って言われるに決まっているから。服を着るたびに言われるだろう。それなら多少ダサくても母親のお勧めを買ってもらった方がマシだ。自分で買えば?と思うかもしれないが、そんなにお小遣いをもらっていない。我が家のお小遣い制度は小学生500円、中学生1000円、高校生3000円だった。
それに母親はちょっとしたわたしの失敗を酷く責める。「どんくさい、のろい。」と言った言葉や「性格悪い」などなど。毎日辛かった。でも、いつかこの異常な家庭に気がついた人がわたしを救ってくれると信じていた。
小学校の頃や中学の頃は「帰りたくなーい。」などと言っていつまでも家にいたが、それが家族に問題があるからだと気がつく教師はいなかった。塾の講師も我が家の異常さに気がつく事はなかった。王子様なんていないそんなことに気がつき始めたのは大学に入ってからだ。周りでも付き合っている人が増え始めて気がついた。ただ、何もしないでいるだけでは王子様なんて現れない。みんな自分磨きしたり、好きな人にアプローチしたりして付き合っている。それに比べてわたしは?何もせずに過ごした。そう気がついてからは王子様なんていないと思って過ごしてきた。もちろん彼氏もできた。でも、わたしのことを本当にわかってくれる人なんて誰も現れなかった。
「親も心配だったんだよ。」
とかそんなことばっかり。もう聞き飽きた。大学卒業間際に彼氏と破局し、もうしばらくは誰とも付き合わなくてもいいやと思ってた。あの人に会うまでは。それは突然だった。
無事に入社式を終えて3ヶ月の研修を経て配属された。わたしの配属された先は同期はわたしを含め3人いた。でも、わたし以外の二人はとっても仲良しだった。わたしはそこに入れなかった。同期には溶け込めなかった。そんなわたしを部長はとても気遣ってくれた。ほぼ毎日話しかけてくれて内気でなかなか周りに溶け込めないわたしが溶け込めるように気にかけてくれた。
配属されて1ヶ月がたったある日その部長に呼ばれた。連れられて小会議室に入る。
「仕事慣れた?」
部長が問いかけてくる。
「はい、まあ、、、」
「そっかそっか。最初だから仕方ないよなぁ。」
そのまま部長はわたしの大学での専攻やゼミの話を聞いてきた。
5分くらいだろうか、話したあと部長は言った。
「ちゃんと笑うじゃん。なんか、表情暗い時あるから心配した。何かあるなら言って。」
その瞬間涙が出てきた。なんでかわからない。そんなふうに男の人に優しい言葉をかけられたことがなかったからだろうか、、、
「え?大丈夫?」
部長は慌ててティッシュを渡してくれた。
なんとか泣き止みティッシュで涙を拭く。
「どうした?辛いことがあるなら言って。無理にとは言わないけど。」
「‥わたし、親が厳しいんです。小さい時から母親には服買うときも全部決められてたし、友達となんて全然遊びに行かせてもらえなかった、、、。周りとの関わり方がわからないんです。それに母はわたしのちょっとした失敗を「どんくさい」とか「鈍い。」って責めてきました。社会に出てもそう思われるって。会社の先輩方にもそう思われてるんじゃないのかって怖かったんです。父は父で起こるとものにあたる人でした。だから、とろいわたしはいつか上司の高橋さんを怒らせるんじゃないかって怖かったんです。」
やっとの思いで言い切った。
部長は何も言わない。わたしは変なことを言ってしまったのだろうか?きっとそうだ。部長もきっと今までの彼氏と同じだ。そう思った瞬間抱きしめられた。思いがけないことにびっくりして体が硬くなる。
「辛かったんだね。もう大丈夫だよ。誰も平井さんのことなんてどんくさいなんて思ってない。むしろ新人にしては頑張ってる方だよ。それに高橋さんもそんなふうに怒るような人じゃない。ここは平井さんを傷つける人なんていないよ。安心して。何かあったら俺が平井さんを守るから。」
わたしを抱きしめたまま部長はそう言ってくれる。
「ありがとうございます。でも、親がいつも言うんです。帰りが遅い日があるのはわたしが鈍臭いからだって。」
「君の親がおかしいだけだよ。そんな奴のもとになんていなくていいんだよ。俺は平井さんを救いたい。平井さんの笑顔が見たい。いつか俺が平井さんを親の元から連れ出せるかな。」
王子様が現れた。
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