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第21話 鳥籠の中
目を覚ますとそこは見知らぬ場所だった。
「ん……」
重い体を起こし、きょろきょろと見回すと、誰もいない。
寝室にいるようだったけれど、そこは誰の部屋なのかもわからず、部屋からでると静代さんと恭士お兄様がいた。
どれくらい眠っていたのか、すでに窓の外は暗く、外が見えなかった。
「どういうことなの…?」
「起きたか」
「お兄様!説明してください!静代さん。まさか、私に睡眠薬を飲ませたの!?」
「もしもの時にと、旦那様から頂いております」
顔色一つ変えずに静代さんは言った。
「お父様が……。ここはどこなの?」
共犯者の二人は黙った。
暗い林の中にある一軒家で周りには家があるのか、どうかすらわからない。
「咲妃。しばらく、ここにいなさい」
帰してもらえないと気づき、二人の顔を交互に見た。
「どうして?何を言ってるの?私を帰して!」
恭士お兄様は溜息を吐いた。
「惟月の昔の女に馬乗りにされ、胸倉をつかまれたそうだな。他の社員も見ていたそうじゃないか。なにかちがうところはあるか?」
「でも、それは……」
「妹がそんな扱いを受けたと聞いて、黙っていられるか?」
「私は平気です」
「馬鹿を言うな!」
恭士お兄様の怒鳴り声が響き、静代さんですら身を震わせた。
けれど、私は惟月さんの元に戻りたい一心で、ひるむことなく、恭士お兄様に食い下がった。
「お父様はなんておっしゃっているの?こんなことをお父様が許すはずがないわ」
「咲妃の身の安全のため、しばらくはその女から離せと言っていた。親なら、当然だろう」
「しばらくって、どれくらいここにいればいいの?」
「さあな」
冷たく言い放ち、恭士お兄様は立ち上がった。
「俺は仕事があるから戻る。後は頼んだぞ」
「はい。恭士坊ちゃま」
「恭士お兄様!私は惟月さんのそばにいると約束したんです。だからっ……」
冷ややかな目で恭士お兄様は私を見た。
「だから、危険な目にあっても構わないと?おかしいだろう、それは」
そう言って、大きな音を立てて扉を閉めた。
がちゃりと外から鍵がかかり、中からの鍵は静代さんが持っていたけれど、静代さんは渡してくれそうにはなかった。
「お嬢様、落ち着くまではこちらにいるとよろしいですよ」
静代さんは完全にお父様とお兄様の味方で、私の気持ちも話も聞いてはくれなかった―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「咲妃お嬢様、食事をなさってください。昨日から水も飲まずにいるんですよ」
「ほしくないわ」
ずっと外を眺めていた。
部屋は二階でトイレもお風呂もあり、広さだけはあったけれど、外へ連絡をとれるようなものは一切なく、人の気配はほとんどない。
食事の材料や買い出しは静代さん以外のお手伝いさんがしているらしく、静代さんがこの別荘から出て行くことがないようだった。
おかしなことをしないように見張り番のように別荘にいつもいて、私を逃がしてはくれなかった。
「なにか召し上がりたいものはございませんか」
「帰してくれるまで、なにも食べないわ」
惟月さんはどうしているだろう。
兄や父に離婚をするよう言われて、承諾したら?
面倒な相手だと思われて、捨てられたら?
嫌な考えを打ち消すことができずにいた。
信じるべきなんだろうけれど。
頭がズキズキと痛んだ。
「惟月さん…」
泣き出しそうになったけれど、泣きたくはなかった。
泣いてしまえば、負けてしまうような気がして悔しかったから。
視線を落とした先に婚約指輪が目に入った。
「そばにいるって約束したのに―――」
こんな簡単に引き離されるなんて。
ここから、なんとしてでも、逃げ出して、惟月さんに連絡するしかない。
静代さんだって、ずっと起きているわけにはいかないのだから。
何か方法があるはず。
鍵のある場所を目で追いながら、静代さんの動きを一日中観察していた。
鍵はエプロンのポケットに入れてあり、私が鍵を狙っているとは思いもしないようだった。
ずっと従順に高辻の家で暮らしてきた私がお父様やお兄様に反抗するとはだれも考えない。
相手は油断しているはずだった。
機会はそんなにない。
多分、油断しているのは大人しくしている間だけだろうから。
失敗すれば、次はない。
閉じ込められて二日目の夜が過ぎて行った――――
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