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第一章 誰も僕を見てはいない
何かがおかしいと、王子は幼いころに気づいていた。
皆が考えつきもしなかったような戦術を提案すれば、拍手喝采を送られた。年上を剣術で圧倒すれば、期待の眼差しを注がれた。大人たちに褒めてもらえることが純粋に嬉しかった王子は、彼らの気持ちに答えるように自分を磨き続けた。
しかし、王子の周りにいるのは、王子の成長を喜ぶ者ばかりではなかった。王子が姿を見せるだけで苦々しい顔をする者も少なくない。
彼らの期待に答えられていないから、毒を吐かれるのだと思っていた。だから、一層武芸に学問に励み、皆の心をくみ取ることに力を注いだのだが、いつになっても、王子を疎む者はいなくならなかった。
自分が彼らを傷つけるようなことをしてしまったのだろうか。何か誤解されているのではないだろうか。
聡い子供は長い間考え続けた末にようやく、自分の置かれている状況を理解することになる。
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