第一章 誰も僕を見てはいない

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 たった一人の妹に、一緒に遊ぼうと誘われた。  家族の繋がりをあまり知らず、何より同じ年頃の子供と話す機会にも恵まれなかった王子は、無邪気に喜んだ。  そうして呼び出された池に、王子は思い切り突き落とされた。  妹はその時はっきりと告げた。お兄様は邪魔なの、と。  そして王子は理解した。自分が賞賛されるのは、自分が王子だからであって、自分が疎まれるのもまた、王子だからなのだ。  そういえば、父親と王妃の間にこの妹が生まれてから、大人たちの反応は以前よりも顕著になり始めていた。味方は王子をなんとしても国王にとせっつき、敵は王子を陥れようと画策する。  そのことに気がついてから、王子は自分の味方の存在すら気味悪く思えてならなかった。国王になることを当たり前のように求めてくる彼らに、恐怖すら覚えた。  怖くて、王になどなりたくないと口にしてしまった日、大人は今までに見たこともないほど怒り狂った。そして彼は確信した。  誰も僕を見てはいないのだと。
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