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北離宮の片隅にそびえる大木の元、エレノアは一人目を閉じ、祈りを捧げていた。
一度も会うことの叶わなかった主君の母に届くことを願う。アリスは立派な君主に成長したこと。これから先も苦難の道が待ち受ける彼を、見守ってほしいと。
もうアリスの隣にいることのできない、エレノアに代わって。
「エレノア!」
じっと目を閉じていたエレノアは、その呼び声に胸を高鳴らせた。その声は彼女にとって全てであり、あまりにも絶対的だった。
「よかった。間に合った」
「……殿下」
「違う」
アリスは息を整えて笑った。エレノアもまた笑った。しかしその顔は泣き笑いのようだった。
「そうでした。もう、国王陛下になられるのですね」
「それも違う……アリスだ。何度言わせる」
言葉では怒っているが、響きはどこまでも優しい。しかし、言われたエレノアは何も答えなかった。アリスと距離を置こうとしているのだと、呼び名だけで分かる。アリスは顔を歪めた。
「行くのか」
「申し訳ございません。貴方の御顔を見てしまっては、お別れが辛くなると思いまして」
「僕は、黙って行くなと言っているのではない」
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