終章 名前を呼んで

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***  北離宮の片隅にそびえる大木の元、エレノアは一人目を閉じ、祈りを捧げていた。  一度も会うことの叶わなかった主君の母に届くことを願う。アリスは立派な君主に成長したこと。これから先も苦難の道が待ち受ける彼を、見守ってほしいと。  もうアリスの隣にいることのできない、エレノアに代わって。 「エレノア!」  じっと目を閉じていたエレノアは、その呼び声に胸を高鳴らせた。その声は彼女にとって全てであり、あまりにも絶対的だった。 「よかった。間に合った」 「……殿下」 「違う」  アリスは息を整えて笑った。エレノアもまた笑った。しかしその顔は泣き笑いのようだった。 「そうでした。もう、国王陛下になられるのですね」 「それも違う……アリスだ。何度言わせる」  言葉では怒っているが、響きはどこまでも優しい。しかし、言われたエレノアは何も答えなかった。アリスと距離を置こうとしているのだと、呼び名だけで分かる。アリスは顔を歪めた。 「行くのか」 「申し訳ございません。貴方の御顔を見てしまっては、お別れが辛くなると思いまして」 「僕は、黙って行くなと言っているのではない」
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