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そっと抱擁が解かれた。深緑の瞳がエレノアをまっすぐに見つめている。
「君だ」
「陛下、それはなりません」
「国王である僕にこんなことが許されないのはわかっている。それでも、僕は君の隣にいるために生きたい。君の前でだけは、君を思う一人の人間でいたい……ほら、僕の方がずっと罪深い」
「陛下」
「それでも、僕と結婚してほしい」
エレノアの肩は震えていた。
「貴方はこの国で誰よりも高貴なお人であらせられます。私のような、穢れた裏切り者を妻になど」
「残念だが、エレノア。これは僕の身勝手で言っているわけではないんだ」
「……どういう、意味でしょう」
「覚えていてくれているといいんだけど。僕が結婚すると決めた話をしただろう? 父上にお話に伺うとも」
随分昔のことのように思えたが、前国王が暗殺される直前の話だった。父王が用意した数々の見合い話を片端から断り続けた末、ついに王子が身を固めると言ったとき、エレノアは真実安堵の息を吐いたものだった。
その後すぐ、アリスが毒に冒されエレノアは宮廷から追放され、戦が始まってしまった。アリスの結婚話はうやむやになってしまっていた、はずだった。
「相手は君だ。僕はすでに君と結婚すること、父上にご了解をいただいている」
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