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エレノアは信じられず首を振った。
「そんな」
「嘘みたいだと思うか? 臣下たちはともかく君に信じてもらえるかどうかわからないから、文書もしたためて頂いた。あいにく、急いで来たからここにはないのだが」
「……そんな、ことが」
「それがあれば、うるさく騒ぐ臣下も多少は抑えられる……まさかこんな形で父上の許可を利用することになるとは思いもしなかったが」
エレノアはあまりのことに言葉を失いかけていた。なんとか主に思いとどまってもらう言葉を探そうと、口を開閉している。
「その時と今とでは、状況が違いすぎます」
「状況が少し変わったからといって、王命が覆されるはずもないだろう」
「少しではないと思うのですが」
「嫌か?」
深緑の瞳の力強さに、エレノアは耐えきれず視線をそらす。
誰よりも何よりも大切な可愛い王子が、いつの間にこれほど大きくなったのだろう。
エレノアは鈍い女性ではなかった。好意を寄せられている自覚はあった。それでも、彼が本当に愛を捧げる相手は決して自分ではありえない。王家とバーンズワース家の結びつきを強めることが、アリスにとって良いことだとは思えなかったからだ。この点については、アリスの父である前国王と意見が一致していたし、アリスも同様の認識であるとばかり思っていた。
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