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だから、いずれアリスは添うべき相手を他に見つけて結婚するだろうし、そうなったらもう彼の傍にいられないのだとしても、自分はそれを祝福する立場にあるのだと、ずっとそう考えて来た。アリスが本当に妻としてエレノアを選ぶ未来など想像すらしてこなかった。
エレノアはざわめく心を押さえつけて、必死で冷静さを取り戻そうと思考を整理する。
簡単なことだ。この美しい人を拒めば良い。この一時、今だけ突き放し、彼の手の届かない場所へ行ってしまえば良い。
それが正しいと、頭ではわかっている。
「……それでも、私ではない方が良いことに変わりはありません」
「それが本心か」
「はい」
「ならば僕の目を見ろ」
今目を合わせれば、逃げられなくなる。そう直感した。エレノアは顔を上げない。
「父上が認めてくださったのは、あくまでも、僕が君に求婚しても良いということだけで、ここに君の意見は全くない。だから、今一度聞きたい。僕では嫌か? 君は一度も、君自身の気持ちを話してくれていない。そんなことでは諦められない……いいや、拒まれたところで、僕はきっと諦められないのだろうが」
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