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これ以上、聞いてはいけない。主の想いにこれ以上晒されたら、もう引き返せない。エレノアはとっさに身を引いたが、当然、アリスの腕に引き留められた。思わず、主の顔をまっすぐに見てしまった。
輝く翡翠の瞳が、あまりにもまっすぐにエレノアを見つめている。
「君自身が、僕でいいのかどうかを聞かせてくれ。今は、僕の身分も、君の立場も、面倒なことは何も考えなくていい。僕のことだけを考えてほしい」
聞いてはいけない。拒まなければならない。頭ではわかっているのに、長年彼の言葉を絶対のものとして受け入れてきた彼女にとって、アリスの声に耳を塞ぐことがどうしてもできない。
ああ、違う。それだけが理由ではない。誰よりも彼の傍にいたいと願う自分がいる。それを感じる。
「そんな顔は、誰にでもするのか?」
「え?」
「アンドリューから聞いた。君は隙の無い女性だと。数々の騎士たちを、その気にさせることもなく一刀両断にしてきたのだと……そんな人が、誰にでもそんな顔を見せるとは、思えない。少なくとも僕は、見たことがない」
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