54人が本棚に入れています
本棚に追加
今の自分がどんな顔をしているかなど、エレノアは考えてもいなかった。慌てて右手で顔を覆ったが、左手はアリスにつかまれたまま離してもらえない。そうしてみて初めて、顔が熱いと、ようやく気が付いた。アリスが笑っているのが聞こえる。
「申し訳ございません。見苦しいものをお見せしてしまいました」
「何故謝る? 良いものを見せてもらった。少しはうぬぼれてもいいか?」
翡翠の王子はおどけたように笑う。
「あれほど君を傷つけた僕と、少しでも共にいたいと思ってくれているのなら、行かないでほしい。頼む……僕の傍にいてくれ」
エレノアは大粒の涙を一つこぼす。心が震えるのを感じる。ここが自分の居場所なのだと、心が叫んでいる。もうだめだ。この人には敵わない。今見つかってしまった時点で、エレノアの負けは決まっていたのだ。
「呼んでくれないか。僕の名前を、以前のように。君がちゃんと僕を見ていてくれているのは知っている。でも、僕に思い出させるために呼んでほしい。僕自身の名前を、僕のために。ずっと、僕の隣で」
エレノアは微笑んでうなずいた。
「はい……アリス様」
「ありがとう、エレノア」
了
最初のコメントを投稿しよう!