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この国には王族直属の護衛騎士が存在することを、話には聞いていた。むしろ、エレノアの所属する騎士学校は、そのための騎士を育成する場でもある。
一日中、担当する王族の傍に仕えてその身をもって主君を守る。それが仕事だ。常に主の傍に控えていなければならないので、単に剣術の腕が立つだけでは不十分で、礼節もわきまえていなくてはならない。
騎士学校に通っていれば、誰もが憧れる名誉な仕事である。職務上、実家に帰ることはほとんど許されないが、実家と距離を置きたいエレノアにとってはむしろ、望ましい仕事でもあるはずだった。
父親の仕組んだことでさえなければ。
しかし、エレノアがうなずこうと拒もうと、事は進んでいるらしい。父の言う通りに話が進んでいるとしたら、もうエレノアの意志などというもので覆すことはできない。エレノアが断っても希望が通ることはなく、ただ王子を不快にさせるだけだろう。
父親にどんな迷惑がかかろうと知ったことではないが、王子への礼を失することは避けたい。エレノアは実家を疎んじてはいるが、王家への忠誠心は人並みに持ち合わせているつもりだった。仕方なくうなずいた。
「わかりました。尽力いたします」
「ふむ、せいぜい殿下に気にいられることだ」
王子の護衛が嫌なのではない。王子はまだ九歳になったばかりではあるが、剣に学問に、底知れぬ才能をもっているそうだ。そんな王子の護衛を任されるのは光栄だ。
ただ、所詮自分は、父が家を繁栄させるためだけに育てた傀儡にすぎなかったとわかって、絶望しただけだ。
エレノアは思わず、自分の意志でとったはずの剣の柄を、左手で握り締めていた。
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