ハートに火をつけて

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「こんな気持ちで、ユカちゃんに会えないよ」 どうすればいいの、と涙目の桜井が顔を上げた。誰かに聞きたいのは俺のほうだ。たぶん今俺が望んだとおりの展開になってるはずなんだ。だけど思うように体が動いてくれない。ヤバイな、こんなの俺も初めてかもしれない。 俺は壁についていた右手を一瞬離して、今度は右ひじを壁にくっつけるようにして立った。さっきよりもぐっと桜井に近づいて、しんとした資料室の中で桜井の息遣いまで聞こえてくるからたまったもんじゃない。いつもの俺ならもうとっくにいただいちゃってるところだ。たぶん桜井の唇まで10センチもないだろう。我ながらよく我慢してると思う。好きで好きでたまらない女のコがこんな近くに、それもほぼ自分の腕の中にいるっていうのに。 「こんな気持ちって何?このまま何もいってくれないんじゃ、俺は自分に都合のいいように解釈するよ」 ゆっくり、でも確実に俺は桜井との距離を縮める。たぶん困ってはいるけど俺の腕から逃げようとしない桜井を目の前にして汗ばんでくる手のひら。滅多に感じたことのない緊張感が自分自身を包んでいた。 「...桜井は、俺と同じ気持ちってことでいいの?」 桜井は決して首を縦には振らない。でも、否定もせずにじっと俺と視線を合わせたまま、一度瞬きをした。 その瞬間俺の中で何かがはじけた。桜井との間にあった僅かな距離をゼロにして思いっきり抱きしめて、呼吸することを許さないかのようなキスを繰り返す。唇を離す瞬間に桜井が垣間見せる困っているような表情には気付かないふりをして、桜井への気持ちをこんな行為でしか表せない俺をどうか許して下さい。だってもう止められないんだ。どうしようもないんだよ。 俺の気持ちに、火がついてしまったから。
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