06.竜帝? 作品間違ってますわ

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06.竜帝? 作品間違ってますわ

 ラノベの主人公は別にいます。他にいなくちゃいけないのよ。だから乙女ゲームの悪役令嬢の私は違うわ。その話は繰り返し読むほど好きだったけどね。最後のハッピーエンドは大号泣したけど、残念、人違いですわ。  一気に捲し立てて、お引き取り願おう。そんな私の早口に、魔王陛下はじっと聞き入った後で微笑んだ。やだ、凄い美形。やっぱりラノベのラスボスはこうじゃなくちゃね。生贄として奈落の底へ投げ捨てられたヒロインは、この美形魔王に溺愛される運命なのよ。 「あっ、奈落の底に生贄として捧げられるヒロインを助けるため、待機してなくちゃダメじゃない!!」  素で叫んだ私に、魔王陛下は穏やかに首を横に振りました。それから伸びた白い指が私の頬に触れて、私の唇に触れます。まるで言葉を封じるように。  やだ、キュンとしちゃう。ではなくて、助けてください。お兄様! アル兄様! 固まっていた男性陣が動こうとしますが、足が床に固定されて動けませんでした。魔法陣、初めて本物を見たわ。  乙女ゲーム『満開の花が咲く丘』には、魔法設定がありませんから。光り輝く初見の文字が踊る様は、とても美しく感じました。 「紫水晶の瞳を持つだけなら、そなた以外にもおろう。だが、この……」 「待て!! 紫水晶か何か知らぬが、我が乙女だ。触らないでもらおう」  口調が大仰なこの声、CVに心当たりがございます。ファンタジー系の王子役が多い、あのお方の声ですわ。魔王が蹴破った窓枠に手をかけて、金髪の美形が覗いていました。怪力で壁がぼろぼろ壊れていきます。  みなさま、ここは淑女に充てがわれた王宮の一室ですの。壊したら弁償しなくてはいけませんし、言い訳も大変なのでやめてください。 「これ以上、壊さないでっ!」  切実な本音が飛び出しました。だって、この人『竜舞う空の下で〜私と結婚しない王太子に存在価値はありませんのよ〜』の竜帝様です。褐色の肌にかかる金髪は少し銀が混じり、赤みかかった金瞳は獣の瞳――ワイルドなイメージで人気でした。この話は元はラノベで、後に人気が出てゲームが発売される予定だったけど、私は間に合わなかった。  ゲームはプレイしてませんが、CDブックと本は購入した、大好きな作品です。婚約破棄される『竜の乙女』を助けるはずの竜帝陛下が、こんなとこで何してるんですか!? 「そなたこそ、我が目覚めを導いた竜の乙女だ」 「竜帝陛下、ここは作品が違いますのでお引き取りください」  確かに婚約破棄、いえ解消されましたがヒロインは銀髪の美女でしょ? 私は金髪なので人違いです。首を横に振って否定しました。本物のヒロインが待ってますよ?  どうしましょう。魔法がない恋愛ゲームに、ラノベやら別のゲームが混じったようです。しかも全員私を狙ってくるって、どんなバグが発生したんでしょうね。  運営様、早くお引き取り頂かないと、誤解で世界が滅びます。早急に対策をお願いしますね。  それより……壊れた王宮の窓と壁の修理費、お幾らかしら。
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