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08.お風呂で冷や汗なんて
謁見は私室で行われました。これは公式の場で発表する前に、打ち合わせをする意味でしょう。きっぱり「婚約は解消いたします」と言い切ったことで、王妃殿下を泣かせてしまいました。
「どうしても娘になって欲しいわ。養子をとれば、いえ……いざとなれば新しく生んででも」
新しく生むくらいでしたら、ご希望の娘になさってください。それと今から生まれる赤子では、私が嫁ぎ遅れます。王妃殿下を説得し、残念そうな国王陛下に向き直りました。
「まず、我が息子が申し訳ない。そなたに恥をかかせた。いまは謹慎させているが、安心致せ。王妃の望み通り、王位継承権剥奪の上、王族からの追放とする」
私と公爵家の名誉を守るために全力を尽くす。国王陛下のお約束に、私の付き添いを買って出たお兄様もほっとしたご様子でした。自分で言うのもなんですが、私はお兄様に溺愛されています。双子でなく片親が違っていたら、即時求婚される程に。
お父様も激怒されるでしょうし、王家が身内に甘いところを見せたら、爆発した当家の男性が宣戦布告しますから、しっかりお願いします。私の言いたいことを汲み取り、国王陛下は大きく頷きました。これで一安心です。
あとは帰宅してゆっくり休みましょう。明日のことは、明日までに考えれば良いのです。お腹も空きましたし、お風呂も入りたい。柔らかなベッドで横になって、大好きな本を読みながら寝ることに決めました。
頭にできたコブを気にしながら帰宅し、部屋の前でくるりと振り返りました。
「お兄様、ここまでですわ」
「だが、心配だ」
「お、に、い、さ、ま?」
しょんぼりした様子で諦めたようですが、帰りの馬車では私を膝に横抱きにしておられました。屋敷に戻ってからもエスコートして腰を抱いておられましたでしょう? 今日の分は終わり。もうこれ以上の接触は厳禁です。
侍女に髪を解いてもらい、装飾品を外してドレスを脱ぐと……思わず溜め息が漏れました。なんて中身の濃い1日でしょう。この時点でまだお昼過ぎだなんて。
「軽食を運ばせてくださいね。あと入浴したら少し眠りますので、起こさないように」
「かしこまりました」
用意された湯船に浸かり、お気に入りの石鹸で泡を大量に発生させる。本当なら侍女の仕事ですが、今日は1人でゆっくり湯に浸かりたい気分です。いろいろ考えたいこともありますから。
「午前中は魔王陛下よね。紫水晶の乙女は生贄で落ちてくるんだから、やっぱり奈落の底で待機させないと」
混じった物語のヒロインは紫の瞳を持つ美しい少女。印象的に描かれた瞳の色以外は、あまり記憶にない。読んだ後の感想は「魔王様、素敵」だけだった。ここは熱愛する(予定)のヒロインを救うため、魔王陛下を跳ね除けるしかない。
対策が決まったので、ほっと一息。次は竜帝陛下だっけ。こちらは簡単よ、私が銀髪じゃないことが証明になるわ。そこを突いて、自分の世界にお戻りいただくしかない。原作で一途だった竜帝陛下が、私相手に混線浮気なんて……もしかしてゲームの方の陛下?
同じ時間軸で、数百年後の新しいストーリーで発売すると言われ、原作者が関わらないゲームに批判や期待が渦巻いていた、あの乙女ゲームの方だったら大変。完成前に転生したから、あらすじも知らないわ。
温かいお風呂に浸かっているのに、なぜか冷や汗と寒気に襲われて、私は泡風呂でくしゃみを2回した。
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