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01.まさかの丸投げですの!?
「俺は、セラフィーナ・ラファエル・スプリングフィールド公爵令嬢との婚約を解消する」
あら、婚約破棄ではありませんのね。きょとんとしながら、カーテシーを披露する。この美しい姿勢は、体幹のブレもなく素晴らしいものです。王子妃教育はもちろん、公爵令嬢として長年学んだ礼儀作法の賜物ですわ。
状況そっちのけで誇らしげに顔を上げた。
「何か申すことはあるか?」
「いいえ。王子殿下の御心のままに」
満足そうに頷いた第二王子アーサー様が何か話そうとなさいますが、それより早く叫んだ方がいました。
「ちょっと待って!! 要らないなら私が欲しい」
頭がおかし……こほん。元気が余っておられるのではなくて? 隣国から留学しておられる王太子殿下、イアン様ですね。落ち着きが足りない方だと聞いておりました。不思議ではありませんわ。
扇を開いて、私は様子を窺うことにしました。
ただの一公爵令嬢が口を開くのは烏滸がましい状況でございましょう? たとえ婚約解消の当事者であっても、意見を求められなければ話さないのが淑女の礼儀ですもの。
本日は、この国の王太子殿下であられるヘンリー様の誕生を祝う夜会なのです。全員煌びやかに着飾り、主役の登場を待っているところでございました。
第二王子の婚約者である私も、艶やかな赤のドレスに身を包んでおります。公爵令嬢ですから、装飾品も美しい金剛石を黄金で包んだ高価なものです。こういった夜会の場合、婚約者がドレスや装飾品を用意するのが慣わしなのです。気の利かない婚約者が何も贈って来なかったので、呆れ半分の兄が用意してくれました。
「大丈夫かい? 僕の大切な可愛い妹に何てことを……」
「落ち着いてくださいませ、お兄様」
先ほどまで宰相閣下と雑談しておられたお兄様が駆けつけ、髪を撫でてくださいます。私とお兄様は双子で、外見はよく似ております。輝く金髪に紫の瞳、これは我が公爵家に遺伝する組み合わせなのです。黒髪の奥様を娶られたご当主もいらっしゃいますが、なぜか金髪しか遺伝しませんでした。
「欲しいとはどういうことだ!」
「言葉通りだ。私は美しい彼女に惚れている。婚約者が消えたならちょうどいい。婚約を申し入れる」
「そんなの許せるわけないだろ」
始まった喧嘩を見ながら、私は扇の影で溜め息を吐いておりました。だって「欲しい」「嫌だ」の繰り返しなのです。私は物ではありませんのよ?
「そこまでだ! これは何の騒動だ」
王太子殿下ヘンリー様が、婚約者のソフィア様と入場なさいました。一瞬会場が静まり返ります。立ち直りが早かったのは、意外にも隣国の王太子殿下イアン様でした。
「アーサー王子が婚約者であるスプリングフィールド公爵令嬢を蔑ろにした。このような大勢の面前で婚約を破棄すると言い出したのだ。ならば、私が彼女を娶りたい」
完全に求婚ですわ。ヘンリー様が驚いた顔で私を見ました。お兄様が大きく頷きます。お兄様は王太子殿下の側近ですから、お任せしましょう。
「……セラフィーナ嬢は妹も同じ。彼女の意見を聞こう」
ヘンリー様、ここでまさかの丸投げですの!?
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