4人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
電車内での出来事であった。
ドア近く、ちょうど私の前に女子高生が三人、立っていた。
新入生らしく、ま新しい制服姿がキラキラとまばゆいばかりだった。
漏れ聞こえるところによると、中学からの親友どうし、同じ高校に通っているようだ。
三人は、入学直後のテストの話で盛り上がっていた。
「いきなり古墳時代! 意味分かんないよね~よっちゃん」
ショートカットの子が叫ぶように言うと、よっちゃんと呼ばれた脇のポニーテール少女がすかさず尋ね返す。
「ハルカ、お墓の写真のとこ、何て答えた?」
ショートカットのハルカは自信たっぷりに答えた。
「あれでしょ? カギアナ古墳」
「ばっ」
よっちゃんは鼻を鳴らす。
「かじゃーん、そんな古墳名無いよ」
二人の脇に立って大人しく会話を聞いていた、眼鏡の少女がつぶやいた。
「私、前方後方墳、って書いちゃった」
ナニソレー! それじゃたんなる四角じゃーん、と他の二人が騒ぎ立てる。
よっちゃんはまじめな顔で言い聞かせた。
「前円後円墳だよ、みっちゃん」
ハルカも激しくうなずく。
みっちゃんと呼ばれた子は
「……」
少し遠くをみた。
私は聞いていなかったフリをして、やはり窓の外に目をやっていた。
唐突にハルカが口を切る。
「ところでさ、国語もムズかったよね、あのことわざ。度忘れしちゃってさー」
「どれ?」
「あの、『呆れて物も言えない』って……」
「あー私も」
よっちゃんもうんうんとうなずいてあごに手を当てる。
「あれ、何だろ?」
「口、が出てくるんだよね、私も自信ない」
とみっちやん。白い顔に頬が上気している。
よっちゃんが更に眉を寄せる。
「口がなんとか、口が財布、口に言わせる、口が開く……口が、あく?」
「わぁった~~っ」
ハルカが元気に叫んだ。
「閉じた口が、開かない!!」
「そうそう!」
よっちゃんが、ゆっくりと抑揚をつけて語り始めた。
「こんばんは、ニュースとぅーふぉー、なかばやし、よしのです。今日のニュースも、若者による、信じられない、事件、まさに、とじた、くちが、あかない」
周りで聞くともなく聞いていた他の乗客はみんな、
「……」
少し遠くをみていた。
口が閉じていたらよかったのだが。
最初のコメントを投稿しよう!