閉じた口が、何だっけ?

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電車内での出来事であった。  ドア近く、ちょうど私の前に女子高生が三人、立っていた。  新入生らしく、ま新しい制服姿がキラキラとまばゆいばかりだった。  漏れ聞こえるところによると、中学からの親友どうし、同じ高校に通っているようだ。  三人は、入学直後のテストの話で盛り上がっていた。 「いきなり古墳時代! 意味分かんないよね~よっちゃん」 ショートカットの子が叫ぶように言うと、よっちゃんと呼ばれた脇のポニーテール少女がすかさず尋ね返す。 「ハルカ、お墓の写真のとこ、何て答えた?」  ショートカットのハルカは自信たっぷりに答えた。 「あれでしょ? カギアナ古墳」 「ばっ」  よっちゃんは鼻を鳴らす。 「かじゃーん、そんな古墳名無いよ」  二人の脇に立って大人しく会話を聞いていた、眼鏡の少女がつぶやいた。 「私、前方後方墳、って書いちゃった」  ナニソレー! それじゃたんなる四角じゃーん、と他の二人が騒ぎ立てる。  よっちゃんはまじめな顔で言い聞かせた。 「前円後円墳だよ、みっちゃん」  ハルカも激しくうなずく。  みっちゃんと呼ばれた子は 「……」  少し遠くをみた。  私は聞いていなかったフリをして、やはり窓の外に目をやっていた。  唐突にハルカが口を切る。 「ところでさ、国語もムズかったよね、あのことわざ。度忘れしちゃってさー」 「どれ?」 「あの、『呆れて物も言えない』って……」 「あー私も」  よっちゃんもうんうんとうなずいてあごに手を当てる。 「あれ、何だろ?」 「口、が出てくるんだよね、私も自信ない」  とみっちやん。白い顔に頬が上気している。  よっちゃんが更に眉を寄せる。 「口がなんとか、口が財布、口に言わせる、口が開く……口が、あく?」 「わぁった~~っ」  ハルカが元気に叫んだ。 「閉じた口が、開かない!!」 「そうそう!」  よっちゃんが、ゆっくりと抑揚をつけて語り始めた。 「こんばんは、ニュースとぅーふぉー、なかばやし、よしのです。今日のニュースも、若者による、信じられない、事件、まさに、とじた、くちが、あかない」  周りで聞くともなく聞いていた他の乗客はみんな、 「……」  少し遠くをみていた。  口が閉じていたらよかったのだが。
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