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 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。 「師匠、大学生ってどんな感じなんですか?」 僕の言葉に、師匠が盤上から顔を上げる。長い黒髪が揺らめき、大人びた、穏やかな表情をした師匠が、まっすぐに僕を見つめた。師匠に見つめられた僕の心臓は、いつもよりも鼓動を速めていた。 「どんな感じっていうのは、答えにくい質問だね。」  師匠が顎に手を当て、うーんと考え込む。僕も、師匠につられて、考え込んだ。もっと具体的な質問をしたいところだが、いい言葉が見つからない。高校生の僕から見れば、師匠の大学生という立場はなかなか想像しにくいものなのだ。  僕たちの傍にある自動販売機から、ブーンという電気音が静かな休憩スペースに響く。その音は、いつもよりも大きく響いているように感じた。 「少なくとも・・・」  師匠が口を開く。その言葉につられて、僕は師匠を見つめる。きっと、今の僕は、おやつを眼の前にした子供のようにわくわくとした表情を浮かべているのだろう。  師匠の口から放たれた言葉は、至極当然の言葉だった。 「こんな時間に、こんな場所で将棋を指しているのは、大学生らしくはないかな。」  師匠はクスクスと笑っていた。まるで、今この瞬間がとても楽しいとでも言うかのように。
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