1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。 「ふと気になったのだけど。」  将棋が中盤戦にさしかかった頃、師匠が口を開いた。僕は盤上を見つめながら、少しの意識を師匠の方に向ける。 「君、私の他には誰と将棋を指すことが多いんだい?」  とてもたわいもない質問だった。僕は頭の中で駒を動かしながら、ありのままを答える。 「ここ最近は、師匠としか指してないですね。他の人と指すよりも、師匠と指す方が好きですし。」  ぴしっという音が聞こえた気がした。顔を上げると、師匠が驚いた表情をしていた。その理由が分からず、僕は首を傾げる。数秒後、師匠ははっとしたように「そ、そうかい。」と答え、盤上に顔を向けた。その顔は、少し赤みがかっているように見えた。  今日の将棋は、いつもよりも白熱したものになった。いつもは師匠が僕をコテンパンにするのだが、何故だか今日は、師匠の手が鈍っていたように感じられた。・・・まあ、負けたのだが。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!