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④
金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。
今日の師匠は、本を読みながら将棋を指していた。本を読みながら将棋を指すという師匠に対して、以前はぎょっとしたが、今では見慣れたものだ。
「この本、当たりかな。」
師匠がつぶやく。何の本なのか気になったが、ブックカバーのせいで本のタイトルは見えなかった。
「それ、どんな内容の本ですか?」
気になったままでは将棋に集中できない。思わず口から言葉が出ていた。
「読んでみるかい?」
そう言って、僕に本を手渡す師匠。受け取り、パラパラとページをめくる。
「・・・あの・・・読めないんですが。」
「ドイツ語だからね。」
僕はがっくりと肩を落とした。人間的な面で、僕は師匠に後れを取りすぎていると思ったからだ。そんな僕を、師匠はいつものような穏やかな表情で見つ
める。
「さて、将棋を続けようか。」
そう言って、将棋を再開する師匠。僕は、気持ちを切り替えるように頬をぱちんと叩いた。今は、将棋に集中だ。いつも以上に考えて指そう。
今日の将棋は、いつもよりゆっくりと進んでいった。
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