1/1

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。 「君、受験勉強は大丈夫なのかい?」  師匠からの唐突な質問。いつもならすぐに何かしらの反応をするのだが、今日は反応に困ってしまった。 「・・・あの・・・まだ4月なんですが。」  僕は今、高校3年生。だが、受験はまだまだ先のことだ。どうして師匠は、受験勉強の話をしたのだろうか。  そんなことを考えている僕を見て、師匠は、「はあ」とため息を漏らした。あきれているのが目に見えてわかった。 「受験勉強に早いも遅いもないよ。」  ふるふると首を振りながら言い聞かせるように言う師匠。少しむっとしてしまう。僕が子ども扱いされているように感じたからだ。 「・・・少なくとも、この前の模試の第一志望はA判定でした。」  師匠から顔を背け、ふて腐れながら答える。僕の言葉に、師匠は「・・・そうかい。」と短く返事をした。  少し嫌な沈黙が流れる。それを師匠も感じていたようだ。努めて明るく、こんなことを聞いてきた。 「ちなみに、君の第一志望はどこなんだい?」  僕は、先ほど同様、ふて腐れながら答えた。 「・・・この大学ですが。」  ちらりと師匠の顔を見る。その表情には、いつものような穏やかさに加え、驚きと、嬉しさが混ざっているように感じた。  師匠は、再び「・・・そうかい。」と短く返事をした。だが、先ほどのような嫌な沈黙が流れることは無かった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加