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     〇  ここに、一枚の絵が完成する。  私は、それを心から望んでいる。 「もうすぐ……もうすぐで……」  夕暮れの美術室。校庭からはどこぞの運動部の元気な声が聞こえる。しかし反対に、校舎の中には何一つとして音がない。  この環境は、私にとって最高の環境。決してうるさくなく、かといって無音というわけでもない。この環境が絵を描くうえで最適なのだ。  私は、そんな美術室から見える景観を真っ白なキャンバスに落とし込んでいた。  夕日。街。校庭。遠くに見える不格好な鉄塔。  何気ない風景であり、この絵を完成させたところで、それをコンクール等に出すわけでもない。しかしこの絵を"完成"させることが私にとってなによりも重要なのだ。 「よし……よしっ……!」  あと少しなんだ。あと少しだったんだ。 『なんでそんな楽しそうに書けるの?』  私は傍らにあるカッターを握りしめ、キャンバスに思い切り突き立てた。無言で。しかし苦々しく歯を食いしばって。  何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。  どんな顔をしているんだろう。この時の私は。
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