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「はぁァァァァ~」  静かにも甲高い雄叫びを上げながら、切り裂かれたキャンバスを手に立ち上がる。そして私はだらだらとやる気のない足取りで歩き、美術室に隣接する美術準備室のドアのノブに手をかけた。  ガチャと音を立てて開け放ったドアの先には何に使えばいいのか分からないこげ茶の長い机と背もたれのないボロボロの木の椅子。そして、けっして完成させられることのないキャンバスが床に積み上げられていた。そのどれもが無残にも切り裂かれている。まぁ、やったのは言うまでもなく私なのですが。  私は手に持った哀れなキャンバスを床上のキャンバスの山に積み重ねた。こういう場合、キャンバスは分解して再利用できるようにしておくのがマナーなのかとも思うが、美術部もないこの高校においてそんなマナーを通す相手はいない。それに何より面倒くさい。これが一番大きい。  私はもう一度、美術室へと立ち戻った。そこには私が散らかしに散らかした様々な道具があり、床には細切れになったキャンバスの布が落ちている。 「めんどい……」  やる気は出ないが、美術室をこのままにはしておけない。ここは準備室とは違って授業でも普通に使われるため、掃除をしておかなければ私はここを出入り禁止にされてしまうだろう。  私はまず、多種多様な絵の具が出されたパレットに手をかけた。      〇
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