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横断歩道を渡りきった丁度、通学路の公園から悲鳴が聞こえた。
何が起きたのか一瞬わからなかったが、周りの人が公園に吸い込まれるように走っていったので、勇気もその人波に紛れ込んだ。
一体何が起きたのか皆知りたいのだろう。
恐る恐る公園の方に近づいていた。
悲鳴が聞こえた公園を見るとそこには…
若い女性が1人、ただ立っていた。
周りから見るとただ立っているような状況だった。
その女性を見たのだろう。
ため息を着いた人達がその場から立ち去っていった。
その溜め息は、何も無くて良かったと思う安堵のため息か、はたまた刺激を求めてやってきた人の失望の溜め息かは、誰にも分からない。
勇気は何が起きたか分からない状態だったが、人が離れていったのを見て、それに流れるようにその場から離れようとした。
後ろから変な呪文が聞こえるまでは、
「チェックメイトォォォオ!!」
その声を聞き勇気は振り返った。
その叫んだであろう主はさっきの女性の近くの地面に突撃していた。
疑問に思った勇気だが、周りの人間が一切反応していないことに驚いていた。
次の瞬間には女性の方へ走っていた。
そして、女性の近くまで来たとき…
何も無かった。
ただ女性が1人うつ伏せの状態で、倒れていた。
何が起きたのかわからず咄嗟に女性に声をかけた。
「…あの。大丈夫ですか?」
そう口に出すだけで精一杯だった勇気は、必死に女性に声をかけた。
もう一度聞こうとしたとき、後ろから声が聞こえた。
「へぇー!君!この女性の存在が見えるのかい??」
その声は陽気で、無邪気な子供を思わせるような声だった。
勇気は慌てて後ろを振り返るが、
またもや誰も居なかった。
目を擦ったり、周囲を見渡したりしてみたが、本当に誰もいなかった。
困っていると、もう一度あの無邪気な声が聞こえた。
「あっ、そうか。今魔法使ってるから君には見えないんだよね〜。どうしよっかな…」
そんなことをブツブツ言う声だけが聞こえ、さらに勇気は硬直してしまった。
そして、1人で納得したようで、ポンっと手をたたく音が聞こえた。
「よしっ、今魔法を弱めるから、目視できるか確認してね!」
そう言うと勇気の前に薄らと子供のような姿が浮かび上がった。
勇気はヒッ!と小さく悲鳴をあげ、後退りした。
それを見た少年(?)は、
「あ〜。ごめんね。そうだよね〜、半透明だと逆に怖くなっちゃうよねー。」
勇気はここから逃げようと、ズレかけた鞄をからいなおし、立ち上がろうとしたときまた少年(?)がしゃべり出した。
「あー!!待って、待って!君さぁ、魔法に興味無い??」
そんなことを聞かれたのは小学生以来なので、勇気はつい、眉間に皺を寄せてしまった。
その表情を見たのか、少年(?)はまた声をかけた。
「まぁまぁ、そんな表情しないでよ。君が思ってる程、魔法っていいものじゃないからさ!」
この日この時、田中勇気が平々凡々な、他人から見たら下らない人生に終止符が打たれた時だった。
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