第一章 学び舎に八重桜が笑む

5/8
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
 稽古とは(いち)より習ひ(じゅう)を知り  十よりかへるもとのその一  千利休が和歌で示した、茶道を修業してゆく心得だ。  稽古とは一から始めて十まで到達したからといって、それで充分ではない。  十まで達すると、改めてわかることとわからないことがはっきりする。  再び一にかえって繰り返すことによって、自分のものにしてゆく。  その和歌が脳裏をよぎった。  先生から提案されたのは、盆略点前(ぼんりゃくでまえ)のお稽古だ。  道具の扱いを部分的に習う“()稽古(げいこ)”を終えて初めて習うお点前が盆略点前である。  高校の部活動は3年生の9月で終えてしまったから、半年ぶりにお点前をするにはが丁度良いだろう。  だが、しかし。茶道経験者とは名ばかりだ。先生や先輩方を落胆させてしまわないか心配である。  やってみないかと言われて断るのも失礼だ。  私は、自分の帛紗ばさみから帛紗を取り出し、帯代わりのベルトを腰につけて、盆略点前のお稽古をつけてもらうことにした。  帛紗ばさみの中身に独特の名前が多いように、お点前に使う茶道具にも、聞き慣れない名前が多い。  山道盆(やまみちぼん)  盆の縁が山並の起伏を思い起こさせる形をしているお盆。  鉄瓶(てつびん)  鉄製の湯沸かし。  瓶掛(びんかけ)  鉄瓶をかけて湯を沸かす道具。  茶碗  抹茶を飲むための器。  茶筅(ちゃせん)  茶碗に入れられた抹茶に湯を注ぎ、泡立てる竹製の道具。  (なつめ)  抹茶を入れる容器の一種で、形が植物の棗に似ている。  茶杓(ちゃしゃく)  抹茶をすくう(さじ)で、主に竹製。  茶巾(ちゃきん)  茶碗を拭いたりするときに用いる、白い麻布。  建水(けんすい)  お点前中に使用した湯や水をあける容器。  色々な道具を使うのだ。  先輩方に手伝ってもらって道具を準備し、茶道口(さどうぐち)のイメージで畳の上にお盆を置いた。  畳に正座し、一礼する。  心臓が口からとび出しそうだった。  利き手に生じた汗を膝で拭いたが、これではいけないと思い直して、利き手でない方の汗を拭いた。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!