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稽古とは一より習ひ十を知り
十よりかへるもとのその一
千利休が和歌で示した、茶道を修業してゆく心得だ。
稽古とは一から始めて十まで到達したからといって、それで充分ではない。
十まで達すると、改めてわかることとわからないことがはっきりする。
再び一にかえって繰り返すことによって、自分のものにしてゆく。
その和歌が脳裏をよぎった。
先生から提案されたのは、盆略点前のお稽古だ。
道具の扱いを部分的に習う“割り稽古”を終えて初めて習うお点前が盆略点前である。
高校の部活動は3年生の9月で終えてしまったから、半年ぶりにお点前をするには盆略が丁度良いだろう。
だが、しかし。茶道経験者とは名ばかりだ。先生や先輩方を落胆させてしまわないか心配である。
やってみないかと言われて断るのも失礼だ。
私は、自分の帛紗ばさみから帛紗を取り出し、帯代わりのベルトを腰につけて、盆略点前のお稽古をつけてもらうことにした。
帛紗ばさみの中身に独特の名前が多いように、お点前に使う茶道具にも、聞き慣れない名前が多い。
山道盆
盆の縁が山並の起伏を思い起こさせる形をしているお盆。
鉄瓶
鉄製の湯沸かし。
瓶掛
鉄瓶をかけて湯を沸かす道具。
茶碗
抹茶を飲むための器。
茶筅
茶碗に入れられた抹茶に湯を注ぎ、泡立てる竹製の道具。
棗
抹茶を入れる容器の一種で、形が植物の棗に似ている。
茶杓
抹茶をすくう匙で、主に竹製。
茶巾
茶碗を拭いたりするときに用いる、白い麻布。
建水
お点前中に使用した湯や水をあける容器。
色々な道具を使うのだ。
先輩方に手伝ってもらって道具を準備し、茶道口のイメージで畳の上にお盆を置いた。
畳に正座し、一礼する。
心臓が口からとび出しそうだった。
利き手に生じた汗を膝で拭いたが、これではいけないと思い直して、利き手でない方の汗を拭いた。
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