第一章 学び舎に八重桜が笑む

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 八重桜がブールドネージュのようだと思った火曜日から3日後の、金曜日。  いつもは7時にアラームで目が覚めるのに、今日は6時半に目が覚めてしまった。  二度寝しようにも落ち着かず、ベッドから出て着替える。  今日は、大学の茶道部の活動日。流派は、高校と同じ裏千家。授業が終わったら見学に行くつもりだ。  高校の茶道部時代から使っている「帛紗(ふくさ)ばさみ」を持って行った方が良いかな。  帛紗ばさみとは、お茶席で必要な持ち物を一式入れておくもので、お稽古のときも使う。  裂地(きれじ)でできており、長財布みたいな形をしている。  帛紗ばさみに入れるものは、だいたい以下の5点。  帛紗  道具をたり、乗せたりするための絹製の布。  女性は赤か朱色、男性は紫色が基本。  古帛紗(こぶくさ)  お濃茶(こいちゃ)を飲むときや、道具の拝見に使う。  金襴(きんらん)緞子(どんす)をはじめ、色々な織物でつくられている。  扇子(せんす)  お茶席に入るとき、(とこ)の拝見や挨拶のときには自分の膝前に置く。  一般的に(あお)ぐために使うものよりも小さく、開いて使うことはない。  懐紙(かいし)  お菓子を取って乗せたりするときに使う和紙。  菓子切(かしきり)  お菓子を食べるときに使う。  金属製のものや、クロモジという木の枝を削ったものがある。  今日は部活の説明を聞くだけだから、帛紗ばさみは使わないだろう。  でも、マナーとして持って行った方が良いかもしれない。  もしも良い雰囲気の茶道部だったら、入部したい。そう思うけれど、上達せずに皆に迷惑をかけてしまったらどうしよう、という不安がある。  先輩から頂いたカップラーメンを朝食にしながら、利き手でない方で箸を持ってみた。  やっぱり、全然上手く使えない。  1限から4限まで、受講したい授業全てで受講許可が下りた。  土曜日は授業を入れないつもりだから、明日は休みになる。  ちょっと良い気になって、茶道部の活動場所である和室を(のぞ)いた。  8畳の4倍(って、何畳?)もある広い和室で、3か所に分かれてお稽古が行われている。皆、女性だ。  高校時代を思い出す、懐かしい雰囲気だった。  でも、入るのを躊躇(ためら)っていると、「あの」と後ろから声をかけられた。 「見学ですか?」  目が小さくてハスキーボイスの女子だった。だけど、そんなことは気にならないくらい優しい雰囲気を(かも)し出している。  私が「はい」と答えると、女子は目を細めて微笑んだ。 「一緒に見学しませんか? うち……私、社会福祉学科の三原(みはら)早苗いいます」  福祉関係を目指す子なのかな。どうりで優しそうなわけだ。  ふたりで見学させてもらい、話の流れで茶道部だったことを話すと、着物を着た先生から提案されてしまった。  「上級生とお稽古をやってみない?」と。
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