山口くんのよくある日常の一コマ

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 なんだ今の?  例えるなら、黒い一反木綿。自販機から出てきたそれは、細長い布のような体で床を滑り、すごい速さで階段を下りていった。そして、その黒い布を追うように駆けていったのは、神山の護衛犬の1匹、シェパード。  しばらく呆然と階段を見ていると、シェパードが行った時と同じ速さで戻って来た。そして、その勢いのまま自販機に突進し、取り出し口に鼻を突っ込む。だけど、自販機の中にはもう何もなかったのだろう。しばらく何かを探すように自販機の周りの臭いを嗅ぐと、神山の後ろに戻った。 「とも! どれにするか決めたか?」  視線を戻すと、日山も神山もジュースを買い終わったらしく、俺を見ていた。 「えっとね……」 「山口もバナナ牛乳だろ?」 「…………」  嬉しそうに聞く日山の横で、バナナ牛乳を一口飲んで顔をしかめる神山がいる。神山の顔を見ていると、とても美味しそうには見えない。 「あ! 俺、ミルクティー!」 「お、珍しい。いつも売り切れてるのに」  いつもは売り切ればかりでランプの付かないミルクティーにランプが付いていた。俺は嬉々としてミルクティーのボタンを押す。  取り出し口からすんなり出てきたミルクティーのパックを掴む手はもちろんなく、どろっとした汚れもない。  安心して飲もうとする俺を、神山がじっと睨んでくる。寒気はしない。怒ってるとかじゃなさそうだ。 「何? 神山」 「なんでもない」  そう答えながらも、顔が険しい。いや、険しい顔で睨んでいるのは、自身が持つバナナ牛乳か。 「えっと……俺のと交換する?」 「なんだ、山口。やっぱりバナナ牛乳が飲みたくなったのか?」 「まあね、ちょっと飲みたくなった」 「そうか。もっと早く言えば、僕のを分けてやったのに」 「神山は? ミルクティーと交換してくれる?」 「ああ。悪い……」  バナナ牛乳は、不味くはないけどすごく甘かった。神山は甘いものが苦手なんだろう。ミルクティーも甘いけどバナナ牛乳よりマシなようで、ゆっくりと飲んでいた。
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