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 城戸に避けられている、気がする。目が合っても逸らされるし、食堂に誘っても複雑そうな顔をして断られる。これが倦怠期か……付き合いはじめてまだ一週間も経ってないのに。ちらりと向かいに座る野洲を見やるも、涼しい顔でうどんをすすっているから腹が立つ。 「副会長、食べないんですか?」  器用に口の形と違う言葉を紡いだ野洲の足を踏み、「食べるよ」と答える。なぁにが「寂しくて食事が喉を通らねぇの?」だ! 通るっつーの!  城戸に飯をフラれた俺は監視も兼ねて野洲からの飯の誘いに乗った訳だが、失敗だったかもしれない。そもそも、城戸に避けられてるのは野洲のせいだ。にもかかわらず野洲と一緒にいるなんて、城戸が知ったら誤解がますます深まるんじゃ……。  食堂の空気が揺れる。波紋の中心には食堂に来たばかりの城戸がいた。どうやら俺たちと時間をずらして来たらしい。周囲の生徒の反応にやや居心地を悪そうにしながら役員席へと向かっている。  不意に城戸と視線が交わる。城戸は俺の隣の野洲を見ると、何事もなかったかのように階段を登り姿を隠してしまった。 「……」  向けられた背中に気分が下がる。黙って飯を食べ出した俺に、野洲は含みのある目を投げてくる。 「何かな」 「いいや? 今日も綺麗だなと思って!」  同業だからか、副音声は意識せずとも理解できた。今の言葉の意味は『堪えたくせに澄ました顔してやがんの』だ。  俺は城戸を守りたい。理由は多分、易しい仕事に甘えて見守り続けたせいでうっかり生まれてしまった情だろう。だが、情だけでこれ程気分が落ち込むものだろうか。逸らされた視線に心が揺れる不可解さ。野洲の小馬鹿にしたような面が鬱陶しく、振り払うように飯をかき込んだ。  そんな日々が続いた。野洲は俺が城戸の動向を気にしていることが面白いらしく、状況の悪化を狙ってかベッタリとくっついてくる。野洲もあれでいて暗殺者だから絡みつかれるとなかなか引き剥がすことが難しい。こちとら品のいい副会長様で通っているのだ。投げ飛ばそうものならギョッと目を剥かれることだろう。 「会長、副会長、俺部活連の方に書類を受け取りに行って、そのまま寮に戻るね」 「そっか、お疲れ」 「二人も程々にして戻りなよ。交流会はまだ先なんだから」  曖昧に手を振り返事を黙殺する城戸に、会計は苦笑を返す。この分だと無理をしそうだと判断したのか、俺の方に目で合図を送った。任された。  こくりと頷くと、会計はじゃあねと手を振り部屋を出る。沈黙が落ちる。寒々しい空気に、二人きりになるのは久しぶりだと気付く。あれ、俺たち二人の時ってこんなに息をしづらかったっけ。  城戸は黙々とパソコンに向かって仕事をしている。それでも少し、肩が俺の方を向いているから意識はこちらに向いているのだと分かった。 「……あの」  何か言わなくてはという思いが先立ち、考える前に声を出す。 「野洲くんと一緒にご飯を食べてるのは彼に懐かれちゃったからで、好きとかじゃ」 「別にいい」  言い訳じみた言葉を遮り城戸が言う。 「俺と東雲はただのお試しだし、俺がどうこう言う資格とか、ない」 「っ資格なんて」  椅子から跳ねるように立ち上がる。 「資格なんて、俺が一番持ってないよ」  ーーよりによってターゲットと付き合うか?  頭の中で野洲が嗤う。   「東雲……?」  訝しげな声にハッとした。ターゲットに本音で話すなんてどうかしてる。にっこり笑い誤魔化すと、城戸はむっつりと口をつぐんだ。  沈黙。微妙な空気の中、各々の作業に戻る。カタカタカタとキーボードの音。カタ、と音が途切れる。 「お前は、」  顔を上げると、城戸の硬い表情が見えた。不機嫌そうな眉根には躊躇いの色が滲んでおり、不器用ながらに言葉を探しているのだと分かった。うろ、と視線を彷徨わせる。右、左、下、そして正面。 「お前はいつも本当のことを隠してる気がする」  ぽつりと吐かれた言葉は芯をついていて、俺を動揺させるには十分だった。確信を得ている訳ではないのだろう。気まずそうな城戸に小さく同意する。 「確かに、俺は少し嘘っぽいかもしれないね」 「そこまでは」 「いや、城戸の言いたいことも分かるんだ。この学園の生徒だったらよくある話だろうけど、俺の家は自分を出すことをよしとしなかったから」  本当の話に嘘を混ぜる。慣れた作業に胸が痛むのはなぜだろう。 「……野洲とは本当に何もないのか。二人が好き合っているなら、」 「いや、それはないな。野洲くんは城戸のことをやけに気にしていてね。いつも俺に探りを入れてくるんだ。この間だって城戸と別れさせるために嘘の告白をしてくるし」 「嘘」  自らの潔白を説明すると、城戸は表情を緩める。安心したような反応に嘆息し、ふと違和感を覚える。どうして俺はこんなにも城戸の反応を気にしているのだろう。
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