おまけ たんたんタヌキ

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おまけ たんたんタヌキ

「ど、れ、に、にしようかな~」 ランチ付きの会議を終え、コーヒーを飲みながら各営業所からの報告書に目を通していると、斜め前の大テーブルに陣取って今日のおやつを選んでいるらしいスーツを着たタヌキの鼻唄が聞こえてきた。 「部長。糖分の取り過ぎは糖尿病の元ですよといつも奥さんに注意されていませんでしたか?」 ふんふんと楽しそうな神田部長ことタヌキ…いや、タヌキこと神田部長に一声かけた。 それはつい先日までタヌキに秘書の如くいいように働らかされていた俺の同僚、谷口早希が何度も言っていた言葉だ。 ただでさえ部長は谷口から酔っていたとはいえ信楽焼のタヌキと間違えられたほどの体型だというのに・・・、という言葉は何とか喉の奥に飲み込んだ。 「本質が見えてないね、高橋くん」 タヌキは頬を膨らませている。 「僕が選んでいるのは目の前にあるこのおやつじゃないの。おやつに置き換えた何かだよ」 は?自信満々で何いってんだこのタヌキ。 どう見てもテーブルに積まれたおやつの山から今から何を食べるかワクワクしながら選んでいるところだろうが。 「あ、今胡散臭いとか思ったでしょ。本当だからね。あー、今の目付きで高橋くんはマイナス1点」 タヌキは口を尖らせた。 めんどくせー、なんだ、マイナス1点って。 「すみません。胡散臭いと思ったのは本当ですが、マイナス1点って何ですか」 キーボードを打つ手を止めてタヌキを見た。 タヌキの目の前にあるおやつはよく見ると山と積まれている物の他に4つだけ横によけてある。 イタリアのブランドチョコレートと北海道の有名ブランドお菓子、それとなぜかビーフジャーキーにプロテインバー。 タヌキはなぜか避けてある4つには手を触れず、山の中にあった鈴の形をした小型のカステラの袋を取りだすと封をあけもぐもぐと頬張り始めた。 「高橋くん、もぐもぐ、例のプロジェクトなんだけどね、もぐもぐ、副社長のプランどう思う?」 言葉の中にもぐもぐが入っているのはどうかと思うが、タヌキの部下しかいない室内の昼休みのひと時なのだから許される範囲だろう。 「今までにないかなり強引な手法ではないかと。このままでは支社のプロジェクトメンバーからも同意を得られるかどうか」 率直に思ったことを言わせてもらうとタヌキも頷いた。 「そうだよねー、もぐもぐ」 傍らにあったコーヒーを口に運んでまた話し出す。 「加絵ちゃんのコーヒーも美味しいけど、やっぱりまだ早希ちゃんには敵わないんだよねー」 タヌキはカステラをやめて揚げせんべいに手を伸ばした。 「で、高橋くん的に支社の中でネックになるのは誰だと思う?バリンボリン」 合いの手がせんべいの音に変わる。 「係長の鈴川さんあたりは噛みついてきそうですね。THコーポレーションでは越後さんとか」 「うん、僕もそう思うよー。あ、美子ちゃーんお茶淹れるのなら僕のもついでにお願いしてもいい?出がらしでいいからさあ」 タヌキはちょうど湯飲みを持って立ち上がった原田女史に声をかけている。原田女史はいいですよと指でオッケーマークを作って出て行った。 「じゃあそう言うわけで高橋くん、明日からドイツに行ってきて」 はあ? また勝手なことを言いだしやがった、このタヌキ。 なにがそう言うわけだ。 「明日からですか」 「そう。行けるよね」 そう言ってニヤニヤとしている。 副社長の新しいプロジェクトチームに参加している俺は2週間後から県外の地方都市にある支社に長期出張が決まっている。俺がこのところ今までの仕事の引継ぎやプロジェクトの企画でかなり忙しくしているのを一番よくわかっているはずなのに。 これは俺に対するタヌキからの挑戦状だ、たぶん。 ・・・忙しい俺をからかってるだけの可能性もある・・・。

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