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タイムマシン
時は西暦2035年。
世界に蔓延し、パンデミックを引き起こした感染症がインフルエンザ程度に収まってから、10年。
AIが台頭しているのかといえば、実はそれほどでもなかった。
2019年、AIが人類を破滅に追い込むのでは?と危惧されたほどAIは急成長していたが、世界的感染症で世界は一変した。
人との関わりが極端になくなった。
それは、感染症が収まっても完全に解消されるものではなかった。と、すると やっぱりAIが、と思うのが自然だが、実際は違っていた。
あらゆる仕事がAIの手を借りるようになったものの、どんなにその幅が大きくなった職業でも最終チェックをするのは人だった。
そして、巣籠もりで爆発的に人気だったゲームに人々は飽きてしまって 新しい刺激を求めるようになり、結果、『ミライアライ』という会社がタイムマシンを開発したのだ。
因みに、この『ミライアライ』という名前は「未来」と「荒井」をくっつけたもの。「荒井」はこの会社の社長の母親の旧姓である。
これはどうでもいい情報だが。
さて、このタイムマシンの説明に移ろう。
タイムマシンと聞くと、ドラえもんのあの乗り物を思い浮かべるかもしれないが、このミライアライ製は工事現場などに設置される簡易トイレのような人がひとり入れる構築物のような物だ。
『ラバドリーム』(トイレのlavatoryとドリームを掛け合わせた造語)と命名されたタイムマシンは、その中に入りパネルにキーワードを打ち込む方式だ。
購入する際に登録が必要で、登録者しか入ることができない仕組みになっている。顔認証と指紋認証、虹彩認証の3つがクリアしないとラバドリームに入ることができない。
中に入ってのパネル操作だが、予め、個人情報を搭載しているため、キーワード、例えば、行きたい場所と日時などを入力すればいいわけだ。
ラバドリームの気になるお値段はジャスト100万円。20%の税込価格で100万なのだから、収入が少ない人もコツコツ貯めるとかローンを組むとかで買えないこともない。月イチのメンテナンスに1万。通信料と電気代が要るものの、使えばポイントが貯まってメンテナンス料金免除や電化製品が貰えたりする。
このラバドリーム、発売するや否や、飛ぶ鳥落とす勢いで、世界中に売れまくった。
そんなに大勢の人が使うと、歴史が変わりまくったり、犯罪に多いに使われるのでは?と思われるだろうが、その心配はまずない。
第一にラバドリームは未来には行けない。
ミライアライ社が開発したのに未来にはいけないというのはどうもなぁと思ってもみるが荒井の倫理観がそれを許さなかった。
未来を見ることによって、何が起こるかわかり、事前に対処できるという利点もあるが、悪いことも必ずあると予測できたし、何より、本来の未来をねじ曲げてしまうということになるからだ。
本来の未来とはなんぞや?という疑問もあるが、それはさておき。
未来に行けないことと、もうひとつ。
過去になら自由に行けるのかというとそうでもない。行くのは本人が存在していた場所に限るし、何せ、その世界に入り込むことはできない。あくまでも空から見ているということ。すなわち、このラバドリーム、用途は過去の自分ありきの閲覧に限られていたのだ。
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