早期退職

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早期退職

私は現在、68歳。 文房具メーカーに勤めていたが、定年を待たずして早期退職した。定年は70。年金も70からしか貰えない。私は保険会社の個人年金を就職した時から掛けていたし、体力というより気力が切れてしまったので思いきって辞めた。 ずっと庶務係にいたのに、60を過ぎてから商品開発部に異動になった。その歳で?と思われるかもしれないが超高齢社会の昨今、若い人向けだけの商品を作っていたのでは商売が立ち行かなくなっていた。何せ、65歳以上が日本の人口の4割に迫りそうな勢いで増えていたのだから、私のような初老も商品開発に携わることは普通になっていたのだ。 庶務という単純な仕事から、商品開発の仕事は最初こそ楽しくて仕方なかったものの、やはりトシなのか行き詰まると疲れが半端なかった。 そして、68で退職したわけだ。 ここまで、私が独身のようなニュアンスを醸し出してきたが、れっきとした既婚者である。 ひとり息子は結婚して、すっかり嫁の奴隷と化したようで孫の顔さえ滅多に見せに来ない。 夫は、といえば私と同い年だが、私より早くサラリーマンを辞めた。そして、親が遺してくれた幾ばくのお金と退職金で 食材を宅配する会社を立ち上げていた。 パンデミックで世の中の食生活が変化した。 外食産業の縮小と共に、必要なだけの食材を宅配する会社が急成長したのだ。その時期の環境大臣が食品ロスの削減に力を入れていたことも影響したのだろう。 だからといって、その手の会社が全て儲かるかというとそうではない。数がやたら、増えたのだ。しかし、夫の会社は中堅ながらも利益を出し順調だった。親の代が農業を営んでいたため、広大な農地があり、そこで、あらゆる有機野菜を自ら栽培した。それが消費者には魅力に感じたようで、年を追うごとに利益は上がっていったようだ。 私は一切、夫の仕事には関わらなかった。土いじりが嫌いだったし、人付き合いがあまり得意ではなかったからだ。 さて、大きく遠回りをしてしまったが、私はラバドリームを即金で購入した。 このトシになって、長年引っ掛かっていたことを解消できるのかと思うと心が躍った。
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