水銀体温計

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水銀体温計

(くだん)のタイムマシン、ラバドリームは自分が存在していた過去の閲覧しかできないというのは、前述したところだが、それって何か意味があるの?と思われる方もおられるだろう。 しかし、これがかなり人の役に立っていたのだ。 ミライアライ社がここまでしか技術がなかったのか、それとも社会貢献という意味で製作したのかは定かではないが、自殺者がラバドリームの販売以降、減ってきていたのだ。それはニュースでも取り上げられた。SNSでもミライアライ社に感謝する人たちの声が多数上がっていた。 どうも、過去の幸せな自分や意気揚々としていた自分を見ることで初心に戻れたのだとか、亡くなった人に会いたいと過去に行ったがその時に自分や家族がとても悲しんだことを目の当たりにし、自殺がどんなに愚かなことかを痛感できたとか…。 まあ、理に(かな)ってはいるが自殺願望のない自分には全く理解できなかった。 さて、私の1番目のタイムスリップだが、それは気の抜けるような理由で選んだものだ。 幼少の頃、たぶん幼稚園かそれより前なのかもしれないが、同居していた祖父が生きている時だからその頃に間違いないだろう。 昔は体温計が単体でしかも水銀だった。 今は体重、体脂肪、BMI、体温、血圧、脈拍数、血液中の酸素濃度、これらの数値が10秒タッチで表示されるスマートフォンぐらいの大きさの『ヘルスチェッカー』という代物が家庭に1台はある。 だから、水銀体温計なんてもうどの家にも残ってはいないだろう。 その水銀体温計を私は幼少の頃、割ってしまったのだ。
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