水銀体温計

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私はラバドリームのドアの開閉スイッチを押した。登録者以外が押せば警告音が鳴り響き、ミライアライと提携している警備会社『フジノ未来警備』が3分以内に駆けつけるらしい。3分?!まさか、個々のラバドリームの裏に張り付いているわけでもないのだろうが…。 無事にドアは静かに開いた。 中に入り、パネルにキーワードを入力する。 正確な日時は不明なので、3歳から10歳と長めに期間を入れる。あとは『私の実家』『割れた水銀体温計』と入力。 すると、1分後、1件ヒットした。選択の手間が省けた。確かに水銀体温計がそんなにちょくちょく割れることはない。 私はそれをタッチし、『確認』『GO』の表示を続けてタッチ。この時に『サブパネル』と呼ばれるウォッチを腕に付けることを忘れるとエラーになり、最初からの操作になる。 私もそれを『確認』をタッチする前に思い出し慌てて腕に取り付けた。この『サブパネル』がタイムスリップの残り時間を刻んでいた。 『GO』のタッチと共に私はほぼ60年前の実家の居間に飛んでいた。 私は宙に浮いている感覚だ。しかし、バーチャルのようなものとは違っていた。すぐそこに昔の自分がいるのだ。私は幼稚園の制服を着ていた。そして、水銀を集めているのかと思いきや、柱の陰に隠れ、それを見ていたのだ。水銀を集めているのは祖父だった。 祖父は必死に散らばった水銀を集め、古新聞にくるんでいた。それをゴミ箱に捨てようとした時に私の母が買い物から帰ってきたのだ。その後の光景を見るのが恐ろしく、私は咄嗟に兄の部屋に逃げ込んだ。 これが事実?! 私の記憶が間違っていたってことなの? じゃあ、あのぷにぷにの手の感触は何だったんだろう? 私は時間内に戻り、ラバドリームから外に出た。それからもそのことはスッキリしなかったが私にはまだ高校の時の延長コードの行方と結婚後の不可解な写真の謎を解明したかった。水銀体温計のことは後からまた考えることにしよう。 しかし、その2日後、事件が起こった。 ミライアライがSNS更新直後、忽然と姿を消したのだ。 そして、そのSNSの内容は世界中で物議を醸すことになったのだった。
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