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気がつくと、私は実家の座敷に立っていた。
宙に浮いていないのだ。
目の前から、赤ちゃんの泣き声がした。
私が産まれた瞬間に私が立ち会っている!!
この書き方ではややこしいので、68歳の私を『私』と。こっちの世界の産まれたばかりの私を『わたし』と書くことしよう。
へその緒を切られ、産湯に入れられているのは紛れもなくわたしだろう。そばに2つ離れた兄が叔母に抱っこされていた。
祖父もいる。父が嬉しそうに産湯に入ったわたしを見ていた。
前回の宙に浮いている時とは違う。家族を同じ目線で目の当たりにしているのだ。私はあまりの懐かしさに目頭が熱くなった。現代ではもう誰もいなかった。両親は10年前に相次いで他界したし、叔母も兄も例の感染症で命を落としたのだ。なのに、こうして目の前にいる。
それと同時に、ラバドリームが嘘ではなかったことがわかった。
私は産院ではなく、自宅で産まれたのだ。同年代はもうほとんど産院で産まれていた。私の場合は祖母がお産婆さんをしていたので、自宅で産まれたのだった。しかし、そのことは恥ずかしくて誰にも言っていなかった。友達にも夫にも秘密にしていた。
私は産院で産まれたことになっていたのだ。もし、ミライアライが個人情報からバーチャルを見せているなら、今の目の前の出来事はあり得ない。
しかし、どうして私は立っているのだろう?
「おばあさん、どこから入ったんですか?!」
私より、かなり若い父から呼び掛けられ、咄嗟には何も答えられない。
周りから、私が見えているのだ!!
父の声に、母以外のみんなが一斉に私を見た。
まさか、本名を言えるわけがない。
戸惑っていると、どうもボケ老人と勘違いされたようだ。
「どうして、あんな格好してるんだろうね?」
「近所では見ないから、きっと どこからか徘徊してきたのかもな。」
「警察に届けた方がいいんじゃないか?」
「とりあえず、自治会長に報告するか?」
などと話し合っている。
ラバドリームのドアが開くとは思っていなかったが、もう着ることはないだろうと専用着のスウェットスーツを着たのだ。これって この時代にはなかったんだっけ?あったとしても老人が着るものではないかもしれない。
しかし、徘徊老人と思われては困る。まあ、どっちみち30分しかいられないのだけど…。
「何も持っていないみたいだから、すぐには身元がわからないかもしれないな。」
父が私を見て言う。
えっ?!何も持ってない?!
そうだ、すっかりサブパネルを手に巻いて来るのを忘れた。ん?なら、なんで私はタイムスリップができたのだろう?
しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。この緊急事態を何としてでも回避しなければ。
私は回りの悪い頭をフル回転させた、が何も思い浮かばず、逃げ場のない私はその場で気を失ってしまった。
目覚めると、私は布団の上にいて心配そうな父の眼差しが向けられていた。
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