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過去編①
遊斗が美織と出会ったのは、高校一年生の頃。
登校中に乗り合わせたバスでの出来事がキッカケだった。
「なぁ、連絡先交換しようぜぇ」
「ご、ごめんなさい……」
「いいじゃん、連絡先くらいさぁ」
(……うるせぇな)
席に座り、ポータブルゲームをして時間を潰していた遊斗はチッと舌打ちした。
みるからにチャラそうな男が、席に座っている女子高生の前に立ち、しつこく言い寄っている。周りの乗客達は素知らぬ顔で、彼女を助けようともしない。
女子高生は青ざめ、恐怖で目が潤んでいる。眼鏡をかけた真面目そうな子で、垂れ目と涙ぼくろが印象的な黒髪美人だった。
「いいから、連絡先寄越せよ。じゃないと、ここから退いてやんねぇからな」
「おい、」
遊斗は席から立ち上がると、男の胸ぐらをつかんだ。
「俺のゲームタイムを邪魔すんじゃねぇ」
「あァ?! なんだ、テメェ……ッ!」
男は遊斗に殴りかかろうと、腕を振りかぶる。
……が、その前に遊斗の顔を見て、青ざめた。
「お、お前は……二中の遊斗!」
「いや、二中は卒業したっつーの」
「ひぃッ!」
男はバスが停留所に着くと同時に外へ飛び出し、逃げて行った。
「……なんだ、アイツ」
遊斗は席に戻ると、中断していたゲームの続きを再開した。
遊斗がかよっている高校の最寄りのバス停で降りると、「あの……」と後ろから声をかけられた。
振り返ると、先程男に絡まれていた女子高生が立っていた。
「助けてくださってありがとうございました」
「別に。うるさかったから、注意しただけだし」
遊斗はぶっきらぼうに返す。
今まで他人から礼を言われたことがほとんどないので、気恥ずかしかった。
「それで……良かったら、今度お礼をさせてもらえませんか?」
「は?」
女子高生は遊斗の態度に気を悪くする様子もなく、連絡先を書いたメモを渡してきた。
その顔は緊張か照れからか、真っ赤になっていた。
「私、西高校の佐藤美織って言います。貴方は?」
「……北高の鷹田遊斗」
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